原発の事故を「想定外」と言いたいからか、間もなく一年を迎える大震災を「千年に一度」の巨大地震と強調する向きもあるが、三陸の漁師たちの受け止め方は違っていた▼「明治、昭和に続いて三回目だから四十年に一回なんだ。チリ地震も入れたら、三十年に一度、大津波が来てるんだよ」。巨大防潮堤で知られる岩手県宮古市田老地区の漁師の言葉だ▼ここでは、建物の七割が流され、二百二十六人が犠牲になった。震災から三週間後の昨年三月末に訪れると、がれきの中を自衛隊の車両が土煙を上げて走り回り、不明者の捜索が続いていた▼住民を守れなかった高さ十メートルの巨大防潮堤を最大一四・七メートルまでかさ上げし、再整備する計画が持ち上がっている。高台に集団移転するのか、現地再建を目指すのか、住民たちも揺れている▼一年ぶりに再訪すると、何も残っていない街の中心部に、漁具を置く小屋が立っていた。港の近くに拠点を置きたいと、漁師の佐々木秀夫さん(31)が流された自宅のあった場所に建てた▼昨年、三陸名物の養殖ワカメは収穫する直前、津波にさらわれてしまった。今年の収穫は間もなく本格化する。佐々木さんによると、生育は順調のようだ。「動いていれば何か結果が出ます。失敗したって、経験としてはプラスになるんです」。脱サラして漁師になった若者は、前だけを向いていた。