長崎県で起きたストーカー殺人事件で、千葉、三重、長崎の三県警が連携不足を認め謝罪した。対応の“たらい回し”が重大な結果を招いた。人命を守るべき組織としてあまりに危機感が足りない。
昨年十二月、長崎県西海市で元交際相手の祖母と母親を刺殺したとして二十七歳の男が逮捕された。女性の実家を急襲したのだ。
女性は以前、千葉県習志野市に住み、三重県桑名市に実家のあるこの男とつき合っていた。だが暴力を振るわれるようになり、西海市の実家に避難していた。男の脅迫行為がやまず、女性の家族は三県の警察署に相談したり、通報したりしていた。
三県警が責任を押しつけ合っている間に二人の命が奪われた。そう指弾されても仕方がない事件だ。警察全体が猛省し、総力を挙げて再発を防止せねばならない。
ストーカー規制法の原点に立ち返ってほしい。一九九九年十月に埼玉県桶川市であった女子大生殺害事件を契機に作られた。被害の訴えを男女間のささいなトラブルとして安易に受け流さない。それが最大の教訓だったはずだ。
十年余りがたちストーカー被害の認知件数は今や全国で年間一万六千件に上る。かつてプライベートな問題として泣き寝入りしていた被害者が、積極的に警察に頼るようになった証左と言える。
警察の対応はどうか。被害相談が増えるにつれ、人命を守るという一番大切な使命がおろそかになっていないか。目先の仕事に追われ、差し迫った凶悪犯罪の芽を摘むというプロ意識が希薄になっているとすれば本末転倒だ。
つきまといなどの行為は交際相手にとどまらず、家族や知人、学校、職場にまで及ぶ。長崎の事件のように県境を越えて広域にまたがることもある。
警察署は組織を挙げて被害相談に対応し、県警本部が前面に出たり、他県警と情報を共有したりするよう警察庁は通達を出した。だが加害者に警告や禁止命令を出すのを基本とするストーカー規制法だけでは限界だ。
加害行為の悪質性によっては被害届を待たず、暴行や傷害、脅迫などで摘発し、重大事件への発展を事前に食い止めたい。
ストーカー被害に遭うのは独身女性が多い。配偶者間の暴力を対象としたドメスティックバイオレンス(DV)防止法では、相談や保護、自立生活まで行政と民間が連携して支援する仕組みが整えられている。参考にしたい。
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