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天声人語

2012年3月8日(木)付

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 演じた役は存命の有名人だ。やりにくさのほどを、きのうの記者会見でメリル・ストリープさん(62)に聞いた。「それだけ責任は重く、学ぶことの多い映画でした」。近日公開の「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」で再度のアカデミー主演女優賞を手にした▼米国きっての演技派は、英国初の女性首相になりきった。元首相のスピーチを音楽のように聴き続け、声色や抑揚を体に染み込ませたという。地声より低いイギリス英語を自在に操り、装いも似せた▼作品は、「鉄の女」を生身の妻や母として描き、その苦悩に寄り添う。ご本人が見たら顔を伏せそうな場面もある。もっとも、86歳の元首相は認知症を患い、米女優の好演に感想をもらすことはない▼国民に愛され、同じくらい憎まれた人だった。強い国家と小さな政府を掲げるサッチャリズムは功罪相半ば、英国病と呼ばれる衰退は止めたが、溝を深めた社会は荒れた▼在任は冷戦が終わる激動期に重なる。米国にはレーガン、ソ連にゴルバチョフ、フランスのミッテランやドイツのコールもいた。サッチャー氏は彼らと、世界史の歯車を回した。その存在感は、10年を超す地位のたまものでもある▼永田町での試写には、議員や秘書ら120人が集まったそうだ。1年交代ではこうはいかぬと、皆が思ったことだろう。映画化できる政治家は久しく出ていない。国難に挑む野田首相への助言を会見で請われた女優は、「演技のアドバイスなら」と柔らかくほほえんだ。

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