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作り物ではない言葉がある。「泣きてえけど、上手に泣けねえ。涙が出ねんだ」。岩手県陸前高田市の電器店主、小島(おじま)幸久さん(40)の心の叫びである。妻と7歳の娘を津波に奪われ、仮設住宅に暮らす▼逆の悲痛もある。福島県の小5女児は、遺体安置所で父と対面した。「そこには、お母さんが先にいって、お父さんの顔を、泣きながら見てました。私は、お父さんの顔を見たら、血だらけで、泣きました」。あしなが育英会の震災遺児作文集から引いた▼子どもたちには、気兼ねなく胸中を明かせる場が必要だ。育英会は、仙台市と被災3県の沿岸に交流施設を建てようと、募金を呼びかけている。尽きぬ思いを言葉にしたら、少しは心が軽くなろうか▼言葉の力なら、仙台の大越桂(おおごえ・かつら)さん(23)にも触れたい。重度の障害があり、13歳で筆談を覚えるまで周囲は3歳ほどの知能と思っていた。「言葉を使う自由を知り、外の世界への扉が開いた」という。どんな境遇でも希望を捨てない彼女の詩は、野田首相の所信表明に引用された▼初の詩集『花の冠』(朝日新聞出版)に「美しいカバン」がある。〈永い時の流れのこの一点で/私は静かに息をしている/目には見えない時の流れの/私分のひとつかみの中で/自分の鼓動に耳をそば立てている〉▼冒頭の小島さんで始まった本紙「千人の声」は、被災地の鼓動を日々伝えている。今を生きる証しとして、それぞれの「ひとつかみの時」のどこかに、きょうも新たな言葉が刻まれる。