沖縄県八重山地方の中学校の公民教科書選びで、竹富町は自前で教科書を賄うと決めた。法律の矛盾が負担を強いた形だ。地域の意向を尊重する仕組みを早く手当てせねば同じ問題が繰り返される。
義務教育の教科書は、国が小中学校に無償で提供すると教科書無償措置法は定めている。教科書選びの仕組みも、いくつかの市町村が一緒に選ぶよう求められた場合は、その採択地区で統一すると決められている。
先生が授業や教材の共同研究をやりやすいとか、教科書の大量供給が経費節減につながるとかいった利点があるとされている。
石垣市、与那国町、竹富町でつくる八重山採択地区協議会は昨年八月、新年度からの中学公民教科書に育鵬社を選んで答申した。
しかし、竹富町教育委員会は結論に至る過程が不明朗だとして承服せず、答申には拘束力はないとして東京書籍を選んだ。地方教育行政法は市町村教委に採択権限があると定めているからだ。
ところが、文部科学省は採択地区協議会の答申を有効とし、竹富町には教科書の無償配布はできないとの立場を崩さない。新年度が迫り、竹富町ではとりあえず町民有志が寄贈する形になった。
これでは国民が等しく教育を受ける権利や義務教育の無償を保障した憲法二六条の精神にもとることにならないか。同じようなトラブルが全国各地に飛び火しないか懸念される。
同じ採択地区で市町村の意見がかみ合わないという事態が、教科書無償措置法では想定されていない。文科省は打開の手だてを用意せず、法律の矛盾を放置してきた。そのつけを竹富町に押しつけるようなやり方は筋が通らない。
地方分権の流れの中で、地域社会が学校づくりで大事な役割を担うようになってきた。学校運営や教育活動の在り方に、地元住民や親の考えを反映させるコミュニティースクールも増えている。
尖閣諸島などの領土問題に手厚い育鵬社版も、米軍基地の問題を重視した東京書籍版も、文科省の検定をパスした教科書である。先生が学習指導要領に基づき教えることに変わりはない。
とりわけ沖縄の歴史と現状を踏まえれば、多様な考え方や感じ方、価値観があるのは自然で望ましい。教科書は地域の実情や意向に応じて柔軟に選びたい。
文科省は法律の食い違いを改め、自治体や学校に任せるような採択の仕組みを整えるべきだ。
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