三陸沿岸の被災地で仮設の商店街が増え始めている。自治体の復興計画待ちでは生活再建ができない商店主たち。心にやる気、街に活気を取り戻そうとする姿を、まちづくりの起爆剤にしたい。
被災地を七カ月ぶりに訪ねた。大津波に押し流された街は、がれきが仮置き場に運ばれ、いっそう何もなくなっていた。そんな低地でも、ポツポツとプレハブの集合店舗が目立つようになった。
岩手県大槌町のその名も「福幸きらり商店街」は昨年末、小学校の校庭に開設。独立行政法人の中小企業基盤整備機構が建てたプレハブを無償で利用する。二階建ての六棟に食品スーパー、電器店、美容室、食堂、レンタルDVD−など壊滅した旧商店街にあった四十店が入居する。どの店も、笑顔で迎えてくれた。
お茶の販売店を営む町商工会長の菊池良一さんは「みんな、早く商売を再開したかった。ここができてから、涙を流す人もいなくなった」と話す。仮設住宅から送迎バスで訪れる町民も多い。復興には欠かせないコミュニティーが再生されつつあると実感できる。
被災自治体の多くは低地での住宅建設を制限し、公園や事業所を配置する土地利用計画を描く。しかし被災者が高台に移住するまでの間、生活と雇用は保障されなければならない。仮設商店街は暮らしの復興を優先する表れなのだ。
近年はシャッターの連なる地方の商店街だが、かつてはその街の顔だった。今回の震災で商店主が犠牲となったり、二重ローンがかさむとの理由で再建をあきらめた老舗も多い。それでも二十軒以上が集まるプレハブ商店街が岩手、宮城両県で十数カ所も開設された。新しいまちづくりを導いていく中核を、ぜひ担ってほしい。
現地には全国の商店街から支援物資が届いている。インターネットで仮設商店街のイベントを紹介している大学生有志もいる。交流が広がれば、新たなビジネスも生まれる。大いに期待したい。
どうすれば復興できるのか、途方に暮れる被災地は多い。そういう地域にも、プレハブの屋台村や酒場ができた。ちょうちんの明かりは被災者が心にともした再生への誓いだ。
福幸きらり商店街の近くに、大型ショッピングセンターが営業再開した。客足はそこへ流れ始めているという。でも、菊池さんたちは「もう一度、商店街をつくる」という夢は捨てていない。彼らの心意気は復興の礎となる。
この記事を印刷する