朝八時を過ぎると、その食堂の電話はしばらく鳴りっ放しになる。宮城県石巻市の渡波(わたのは)地区に昨年十一月、オープンした「ワタママ食堂」だ。注文を受けて、仮設住宅やアパートに移り住んだ人たちの家などに配達している▼店を切り盛りするのは女性四人と配達を担当する男性二人。昨年十月まで避難所だった渡波小学校で、被災者でありながら有償ボランティアとして、一日千食以上の炊き出しをしていた女性たちが中心になってオープンした▼お昼の日替わり弁当は三百五十円。四十食からスタートして、現在は一日百七十余食まで増えた。昼時になると、近所の一人暮らしのお年寄りが弁当や総菜を買いに足を運ぶ▼買い物に出られず、食事も作れない被災者は少なくない。栄養バランスのよい手作りの食事を提供するサポートを目指している。陰で支えている青年海外協力隊員OBの菅野芳春さんによると、五月ぐらいから利益が出るようにしたいという▼震災から間もなく一年。被災地では、復興関係で男性の求人はあっても、水産加工会社の復旧が進まず、女性が働く場は極めて少ない。被災者の自立を促す視点からも、ワタママ食堂は示唆に富む▼訪れた日にいただいた弁当のおかずは肉じゃがだった。ご飯も温かくおいしかった。何より、未来に向かい、生き生きと働くお母さんたちの姿がごちそうだった。