HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 04 Mar 2012 21:21:41 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 過去への眼差し失えば:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 過去への眼差し失えば

 統合欧州の将来像が揺れています。ユーロ崩壊の懸念が払拭(ふっしょく)しきれません。統合プロセスが生まれた過去への眼差(まなざ)しは十分注がれているでしょうか。

 いつになったらドイツは普通の国になれるのか、知人から尋ねられ明快に答えられなかったことがある−。

 昨年末の社会民主党大会に招待されたドイツ政界の重鎮シュミット元首相は、「欧州とドイツ」をテーマにした記念講演をこんなエピソードで始めました。

◆「第二の三十年戦争」

 ナチスによる負の歴史が大きく影を落としていることは論をまちませんが、そもそもの要因は、多様な国家が集まる欧州大陸の中央にあって、政治、経済、人口的に突出した重みを常に担わざるをえなかったドイツの地政学的条件にある、というのです。

 中欧に位置するドイツから見れば、欧州の歴史は周辺国から中央へ、また中央から周辺国へ及んだ戦いの歴史でした。

 神聖ローマ帝国時代、宗教改革を背景にドイツ全土が戦禍にまみれた十七世紀の三十年戦争は、周辺国が中央を襲ったものでした。シュミット氏が「第二の三十年戦争」と呼ぶ第一次大戦からナチス政権崩壊までの二十世紀の戦争は、中央から周辺国へ惨禍を広げました。いずれも、欧州全域に拭えない傷痕を残しました。

 アデナウアー独首相からチャーチル英首相、統合理念を形成したフランスのジャン・モネまで、当初の欧州統合論は、理想論などではなく、幾多の悲劇を生んできた欧州の中央と周縁との戦いをいかに回避するか、という現実的な危機感に根差していた、とシュミット氏は強調します。「この欧州統合の原点を理解していない者は、現在欧州が陥っている危機を解決する前提条件を欠いている」、と。

◆象徴的な「ガウク大統領」

 二年前に表面化した金融危機以降繰り返されているギリシャ、スペインなど南欧諸国と、ドイツを中心とする北・中欧諸国との激しい軋轢(あつれき)は、まさに中央と周縁の相克という様相を呈しています。

 欧州連合(EU)は、厳しい市場の現実に晒(さら)されながら、対ギリシャ第二次支援の合意までこぎつけ、応急措置は済ませました。しかし、市場の信認につながるか、なお予断を許しません。

 度重なる支援にもかかわらずギリシャが支援の前提を守り切れず、ユーロ圏離脱を余儀なくされるか、過去幾多の例が示したように、危機感をきっかけに統合を深めてゆくか。今後しばらくは、両極端のシナリオの間を行き来することになるでしょう。

 統合を促進しようとする政治的意思は所々に表れています。来年のEU加盟を決めたクロアチアの国民投票はその一例でしょう。国民の判断は、グローバル社会の周縁に押しやられかねない欧州全体の置かれた危機感をも投影しているかのようです。

 冷戦後、西欧回帰を果たした旧ユーゴスラビア、東欧諸国で、共産体制時代の過去の克服を試みる動きが相次いでいることもその一つかもしれません。ポーランドでは昨年、「連帯」の民主化運動を弾圧した一九八一年の戒厳令を違憲だったとする司法判断が下され、今年に入って当時の指導者に有罪判決が言い渡されました。

 ドイツでは、汚職疑惑をめぐり辞任した大統領の後継者に、旧東独の民主化を担ったガウク氏が選出されることが確実となりました。ガウク氏はドイツ統一後、旧東独秘密警察(シュタージ)資料を統括する官庁の初代責任者を担った無党派の牧師で、過去への眼差しと民主主義を活動の軸にしていることで知られています。

 民主主義の模範ともされる西欧諸国ですが、これまでの統合は、政治家や官僚、いわゆるエリート層の主導で進められてきました。「民主主義の赤字」と批判されるゆえんです。

 シュミット元首相は九十三歳、ガウク氏は七十二歳です。すでに欧州各国指導者は戦後世代となり、統合の原点を経験している層はほとんどいなくなりました。

◆政治意思か経済原則か

 欧州では四月にギリシャで総選挙が予定され、さらにはフランスの大統領選挙も行われます。アイルランドは、先に合意されたユーロ救済のための財政規律を定めた新条約案を国民投票にかける方針を示しています。各国が実施する選挙は、統合欧州の行方を問う国民投票の色合いを限りなく強めることでしょう。

 欧州市民が過去への眼差しを共有しつつ、統合促進への政治的意思を鮮明にするのか。国際金融市場が主導する経済原則への譲歩を余儀なくされるのか。欧州民主主義の真価が問われます。

 

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