HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 19564 Content-Type: text/html ETag: "6f761b-4701-f399ff00" Cache-Control: max-age=5 Expires: Mon, 05 Mar 2012 08:53:16 GMT Date: Mon, 05 Mar 2012 08:53:11 GMT Connection: close 朝日新聞デジタル:天声人語
現在位置:
  1. 朝日新聞デジタル
  2. 天声人語

天声人語

2012年3月5日(月)付

印刷

 俳人の高浜虚子と加藤楸邨(しゅうそん)にどこか通じ合う一句がある。まず虚子。〈蜘蛛(くも)に生れ網をかけねばならぬかな〉。そして楸邨は〈糞(ふん)ころがしと生れ糞押すほかはなし〉。ふと哀感を催すのは、二つの虫の姿に、人と生まれたわが身の影がさすからか▼楸邨には小動物を詠んだ作が多い。虫をめぐっての一文で言う。「生きるということが、人間にとって崇高なものなら、糞をころがすことも、屁(へ)をひることも、虫にとっては崇高な生き方なのだ」と。ともあれ多彩な虫たちが冬から覚める、きょうは二十四節気の啓蟄(けいちつ)である▼漢字に感服するのはこんなときで、「蠢く」と書いて「うごめく」と読む。春のもとに多くの虫。そういえば俳人の上田五千石に〈啓蟄に引く虫偏の字のゐるはゐるは〉がある。蠢くように辞典に並ぶ漢字のことだ▼蝶(ちょう)や蜻蛉(とんぼ)はまだかわいい。だが蜘蛛、螻蛄(けら)、蚯蚓(みみず)、蛞蝓(なめくじ)、さらに蛇、蜥蜴(とかげ)……と続けて書くとなかなか迫力がある。爬虫類(はちゅうるい)や昆虫、その他大勢、虫偏は生きものの一大勢力をなしている▼先日、東京の声欄に「津波被害の田んぼに春よ来い」という投書が載っていた。「震災前はあちこちから声が聞こえたカエルは戻って来るだろうか」と。蛙(かえる)もなじみ深い虫偏の生きもので、「初蛙(はつかわず)」など春の季語になっている▼「蛇のいる田は良い田んぼ」と言うそうだ。そんな田は蛇の食べる蛙が多い。蛙は害虫を食べてくれる。つまり虫偏の多様の中で稲も育つ。あれから1年、命にぎわう春が巡ってほしい。

PR情報