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AIJ投資顧問による年金消失事件は、日本の企業年金が抱える弱点を浮き彫りにした。中小の同業者などが集まって設立した「総合型」の厚生年金基金の存在だ。昨春時点でAIJに資[記事全文]
義務教育の教科書を、国費ではなく民間の寄付で買う。前代未聞のことが沖縄県の竹富町で現実になろうとしている。22冊で1万6千円だが、金額の問題ではない。教科書は「義務教育[記事全文]
AIJ投資顧問による年金消失事件は、日本の企業年金が抱える弱点を浮き彫りにした。
中小の同業者などが集まって設立した「総合型」の厚生年金基金の存在だ。昨春時点でAIJに資金運用を委託していた84の企業年金のうち73を占める。
厚生年金基金は、国が運営する厚生年金本体の一部も、代行して支給している。基金の加入者は、本来なら国に払う保険料の一部を基金に納めている。
景気がいい時代、基金はこの保険料分も含めた資金の運用で収益を上げ、厚生年金と独自の上乗せ部分の年金を払えた。
ところが、株価の低迷などで運用が難しくなり、年金を支給するための積立金が足りなくなる基金が出てきている。
最も深刻なのは、代行している厚生年金の一部を支給する資金さえ足りなくなった基金だ。「代行割れ」という。
昨春時点で、595の厚生年金基金のうち213基金がこの状態に陥った。不足額は計6300億円近くになる。
この不足分を、各基金と母体企業は速やかに回復しなければいけない。できなければ厚生年金の保険料を払っていないのと同じになる。代行割れ基金と関係ないサラリーマンの保険料で埋める必要が出かねない。
しかし、それを阻む構造的な問題がある。
とくに総合型の基金は、加入企業に不足額を埋めるだけの体力のないところが多い。
しかも、複数の企業が加わっているため、無責任体制になりがちだ。保険料引き上げや年金減額など痛みを求める意思決定が難しいという事情がある。
会社OBがすでに受け取っている年金を減らすには、受給者の3分の2以上の同意が要るなど、高いハードルもある。
だが、これを放置すれば、各基金の上乗せ年金が維持される一方、厚生年金の代行部分を食いつぶすおそれもある。
こうした事態を避けるには、代行割れ基金に対し、強制的に上乗せ部分の予定利率を下げて追加の保険料を求めさせたり、上乗せ年金の支給をやめさせたりする仕組みが必要だ。
今に始まった問題ではない。所管する厚生労働省は抜本的な手を打ってこなかった。旧社会保険庁OBが基金に多数天下っていたとされる実態を含め、厳しく検証されるべきだ。
義務教育の教科書を、国費ではなく民間の寄付で買う。前代未聞のことが沖縄県の竹富町で現実になろうとしている。
22冊で1万6千円だが、金額の問題ではない。教科書は「義務教育無償」の柱だ。
こんなことになった背景に、教科書採択をめぐる法制度の不備がある。文部科学省もそれは認めている。なのになぜ、問題がおきて半年たっても改善に乗り出さないのか。
問題をおさらいしてみる。
竹富町は、同じ八重山地区の石垣市、与那国町と採択の協議会をつくっている。協議会は中学の公民教科書として、育鵬社版を選んだ。しかし、竹富町は「手順がおかしい」と反発し、東京書籍版を選んだ。
教科書無償措置法は、地区内では協議会できめた同じ教科書を使うと定めている。一方で地方教育行政法は、各市町村の側に採択権限を与えている。
県教委が間に入って再協議した際、いちど東京書籍版が選ばれた経緯もある。どちらかが一方的におかしいとはいえない。
互いの顔を立てようとしたのか、文科省は昨秋、苦しまぎれの法解釈を編み出した。
有効なのは協議会の決定だが、竹富町の採択が無効とまではいえない。町が自費でほかの教科書を買って使うことを禁じる法律はない――。
思惑どおり進んだようにみえるが、このままではすまない。
竹富町は、国費負担を求める姿勢を変えていない。町予算ではなく寄付で買うことにしたのは、そのためだ。それに教科書の採択期間は4年だ。まさか、あと3年も寄付で買い続けろというのではあるまい。
文科省は3市町の側に、協議して一つの教科書を選び、違法状態を解消すべきだと求めてきた。その言葉は、そっくり自らに返ってくる。
文科省こそ、法の矛盾を解消する努力を今すぐ、始めるべきだ。中川正春・前文科相が「採択地区内を一つの教科書にする必要はないのではないか。市町村に任せたらどうか。ぜひ改革したい」と述べたのは昨秋のことだ。年明けには、平野博文・文科相も見直しを口にした。
民主党は09年の政策集で、市町村ごと、学校ごとの採択に改めることを掲げている。97年に自民党の橋本内閣も、採択地区の小規模化を打ち出している。ためらう理由は何もない。
少なくとも、協議会と自治体の判断が食い違ったらどちらを優先するかのルールを、早く定めるべきだ。そうしないと、同じことがまた起きかねない。