大地震のときに大勢がこぞって帰宅しようとすればパニックに陥りかねない。東京都は職場や外出先で待機するよう促す条例を先駆けて作る。冷静な行動には確かな情報と十分な備蓄が欠かせない。
首都直下地震では都心の広い範囲が最大震度7に見舞われる恐れがあると想定されている。地震の予知は確実にできず、いつ起きても不思議ではない。最悪の事態を覚悟して早めに備えたい。
都市防災の課題の一つは帰宅困難者への対策だ。仕事や買い物などの最中に大地震が襲い、交通網のまひで自宅に帰れなくなった人たちをどうするか。
東日本大震災では首都圏で推計五百十五万人が足止めを食い、駅や道路がごった返した。もし強烈な揺れで壊滅状態になった都市が群衆であふれれば、ビルの倒壊や火災に巻き込まれる危険が大きい。救助や消火の妨げにもなる。
東京都が今議会で条例化を目指す対策の要点は、一斉に帰らず安全な場所にとどまることだ。てんてこ舞いになる行政の限界を民間の力で乗り越える。互いの役割を明確にしておくのは有意義だ。
企業は三日分の水や食料を備蓄し、万一のときは従業員を職場に待機させることになる。助けを求める社外の人たちへの対応を踏まえた社内ルールが要るだろう。
百貨店やホテルなどの商業施設や駅、学校は利用客や子どもを守らねばならない。東日本大震災ではJR駅構内から利用客が閉め出され、批判された。鉄道業界の責任はひときわ重い。
なにより身内の安否を素早く確認できなくては、落ち着いて行動できまい。鉄道や道路の交通情報や外出先で身を寄せられる安全な施設の情報も不可欠だ。
スマートフォンの急増に伴い、普通の携帯電話を含めて深刻な通信障害が相次いでいるのは心もとない。高齢者も使い慣れたインターネットやメールの通信基盤を真っ先に強化しておくべきだ。
東海・東南海・南海の三連動地震といった大災害を念頭に、愛知、岐阜、三重各県と名古屋市も共同で対策に乗り出した。愛知県内だけで百万人近くが帰宅できなくなると予測されている。
国は首都圏や東海圏はもちろん、全国の大規模駅周辺で自治体や鉄道会社、ビル所有者が連携して避難場所を確保したり、物資を備蓄したりする仕組みを整える。
実効性のある手だてが講じられるよう資金面や技術面でしっかりと民間を後押ししてほしい。
この記事を印刷する