寒さがちょっぴり緩んだ先週の深夜、自宅のマンションの玄関に、もぞもぞと動いている茶色い小さな生物がいた。危うく踏んづけそうになったのは、体長一〇センチほどのヒキガエルだ▼啓蟄(けいちつ)にはまだ早い。つかの間の暖かさに土の中からはい出てきたのだろう。翌日から寒さがぶり返したので、こごえていないか気になっている▼「三寒四温」の「寒」ばかりが幅を利かせる時節である。眠っていた生き物たちが動き始める三月になるのに、関東地方はきのう、未明から雪になり都心でも二センチの積雪があった▼この日、完成した東京スカイツリーの雪景色を見たくなった。雪でさえぎられた世界一(六百三十四メートル)の塔は展望台すら仰ぎ見ることができない。舞い落ちる雪の中で幻想的なたたずまいだった▼三年七カ月を要した工事はきのう終了。施工者の大林組から事業主の東武鉄道グループに施設の鍵が引き渡された。五月二十二日の開業に備えた準備が続く▼法隆寺五重塔と同じ心柱構造を採用した塔が立つのは、関東大震災と東京大空襲の惨禍を経験した下町である。巨大な慰霊モニュメントに見える人もいるだろう▼高度成長時代に育った世代としては、三百三十三メートルの東京タワーが影が薄くなったようで残念だ。だから少しだけ代弁したい。海に近い東京タワーは、眺めの良さではきっと劣っていませんよ、と。