HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 15601 Content-Type: text/html ETag: "94530c-3786-72800900" Cache-Control: max-age=2 Expires: Thu, 01 Mar 2012 23:21:13 GMT Date: Thu, 01 Mar 2012 23:21:11 GMT Connection: close 朝日新聞デジタル:天声人語
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天声人語

2012年3月2日(金)付

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 戦争や貧困を米国で描き続けたベン・シャーンの絵画展が、国内を巡回している。水爆実験で死の灰を浴びた漁船「第五福竜丸」の連作もある画家は、あの世で泣いているだろう。米国の複数の美術館が、福島県立美術館への貸し出しを取りやめたそうだ▼「スタッフと作品の安全のため」だという。同様の出展拒否は昨年、いわき市や郡山市も経験した。寂しい話だが、海の向こうの過剰反応とも言っていられない▼青森の雪を自衛隊が沖縄に運び、子どもに楽しんでもらう恒例行事が中止された。原発事故を逃れ、本土から越してきた住民の抗議ゆえだ。南の果てまで行かせた不安感はいかほどかと思うが、放射線は検出されなかった▼案の定、がれきの処理も進まない。一般ごみにして19年分があふれた宮城県で、片付いたのは5%。山と積まれた「街の亡きがら」を見ながらでは、復興の意気は上がるまい。処理能力は限られ、県外でも、住民を説得する自信のない首長らは及び腰だ▼いち早く受け入れを表明した静岡県島田市は、岩手県から運んだがれきを試験焼却した。放射線レベルに変化はなかったが、それでも反対の声は収まらない。市長は粘り強く説得するしかない▼きのうは、シャーンが描いたラッキードラゴン(福竜丸)の被曝(ひばく)から58年だった。広島、長崎、福竜丸、福島と、放射能の恐ろしさを心に刻んできた日本人である。この心情を「怖がりすぎ」などと侮られないためにも、ここは一層の冷静を保ちたい。