「泥縄的」。福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)がまとめた事故報告書から浮かび上がったのは日本政府の危機管理の脆(もろ)さだ。事故を危機への備えにどう生かすのかが問われている。
報告書から見える日本政府の姿は、お粗末としか言いようがない。まず官邸の緊急時への準備不足だ。政府と東京電力の対策統合本部が設置されるまで、原子力災害対策の枠組みなど法的理解を欠いたまま泥縄的な対応に追われた。
原子力安全・保安院や東電への不信感から菅直人首相(当時)が出す独断的な指示が混乱に拍車をかけた。
情報の公開や提供にも問題があった。放射性物質の飛散量を試算したSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の情報提供が遅れた。保安院や東電は原子力安全委員会への情報提供をほとんどしなかった。
日本政府に招かれて意見を述べた米原子力規制委員会(NRC)のリチャード・メザーブ元委員長は「誰が責任を持ってどの問題に対処するのかを明確にした指令系統が必要だ」と問題点を突いた。
首相が独走するのではなく、動かすべき組織を動かし、情報を共有する危機管理の基本がなおざりにされた。意思決定過程を検証するためにも必要な議事録が作成されていなかったことも国際社会では通用しないだろう。
報告書は菅氏が原発から撤退を考えていた東電を押しとどめたことは功績と評価した。だが、東電が撤退を検討していたことが事実なら、事業者としての責任放棄である。電気料金の値上げも真相の究明なしになどとても受け入れる気になれない。
一方、NRCは昨年三月十一日から十日間の内部記録を公開した。情報公開の姿勢が明確だ。
情報がないことで危機感を持ち、原子炉が炉心溶融する最悪の状況を想定、在日米国人の保護を最優先に迅速に対応した。日本政府との危機感の違いが際立つ。
日本政府が小出しに避難指示区域を拡大し混乱した対応とは対照的に、早々に「八十キロ圏外へ避難」を検討した。最悪を想定した結果の対応だろう。
メザーブ氏は「日本の規制当局は社会から信頼されていない。その回復には意思決定過程の公開性、透明性が必要だ」と指摘する。発足する原子力規制庁が、日本政府の危機への新たな備えの試金石になる。政府は国際社会が見ていることを肝に銘じるべきだ。
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