<金で信用をつくろうと思うな。信用で金をつくろうと考えよ>。拝金主義が横行する世の中で、古代ギリシャの政治家テミストクレスの名言も色あせて見えるが、こんな問題が起きると「信用とは何か」と問い返さずにはいられない▼社員の年金のために企業が預けていた約二千百億円の資金が、運用を任されていた投資顧問会社からほとんど消えてしまった。年金専門誌のアンケートでは、五年連続で顧客の支持率が一位の会社だった▼大手証券会社OBの社長は姿をくらました。運用損か、流用かは不明だが、財務に余裕のない中小企業は、最悪の事態に頭を抱えるしかない▼この種の事件で必ず登場するのはタックスヘイブン(租税回避地)。今回も、外資を呼び込むため税が課されない英領ケイマン諸島のファンドに資金が集中投資されていた▼世界のタックスヘイブンに蓄えられた富裕層の資産は千百兆円という説もある。「公正に課税されれば、地球上の貧困を何度も救える」と指摘される資金が課税当局の監視を免れている。人の欲深さには際限がない▼高利回りに疑念を持たず、運用を任せた企業側にも落ち度はあるが、報告書に書かれた実績がうそなら見抜くのは難しい。悪質な投資顧問会社は一社だけではあるまい。顧客を欺く会社は、強制退場させなければならぬ。年金の不安材料がまた一つ増えた。