震災に対して新聞は何ができるのか。河北新報社(仙台市)は東北再生へ向けた三分野十一項目の提言を発表した。生活再建、将来をどう創造していくか。私たち新聞に課せられた仕事である。
提言は序文で「東北の、東北による、世界のための復興」と掲げる。被災者に寄り添った草の根的な発想から、未来への発信まで記される。
▽東北の連帯−。具体的には、以下のようなことがある。
例えば住民懸案の高台移転を進めるため、被災土地を自治体が借り上げる定期賃借権の設定をしたらどうか。移住を希望しながら地域の合意形成に至らない世帯や、自治体が確保する宅地以外への移住を希望する世帯が対象だ。
自立的な復興には広域行政組織「東北再生共同体」の創設が不可欠とする。東北広域連合への移管の可能性を秘める。復興資金の確保には「東北共同復興債」の発行案なども打ち出している。
これらは行政の網の目から落ちそうなもの、また国や各県では動かせないような大きな構想を含む。だが、注目したいのは、常に読者、住民と接触し、また自分たちも住民の一員として考えて行動してゆくという姿勢と覚悟だ。行政にはない新聞社独自の情報ネットワークを生かさない手はない。
実現する、しないはもちろんこれからの話だ。住民、地域、自治体、国、それぞれが考えるためのボールを投げた。さあ、合意が得られたら一緒にやりましょうということだ。しかしそれが求められていたことなのだ。
河北新報以外にも地域の新聞はたくさんある。印象深かったのは震災発生直後、手書きの新聞を避難所に張り出した石巻の新聞社だった。新聞それぞれが号外や被災者の名簿、インフラの復旧状況を競うように提供した。復興の提言はこの延長上に位置する。
震災、津波、原子力事故はどこで起きるかわからない。東北の新聞社の動きは本紙はもちろん、どの新聞にも参考になるし、いざというときの覚悟と準備は日ごろから持ちあわせていたい。
加えて言えば、河北新報の社名は明治維新の折、薩長から侮辱された「白河以北一山百文」からとられた。東北の意地が込められている。そういう精神の発露は人間と地域を大切にする私たちの信条でもある。
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