沖縄県の仲井真弘多知事が米軍普天間飛行場の県内移設を「事実上不可能」とする意見を政府に提出した。野田内閣はそれでも県内に固執するのか。地元首長の意見は重く受け止めねばならない。
知事の意見提出は、普天間飛行場(宜野湾市)の代替飛行場を名護市辺野古に造るに当たって政府が実施した環境影響評価(アセスメント)の評価書に対してだ。
この評価書は、辺野古沿岸部を埋め立ててV字形滑走路を建設しても「環境保全上、特段の支障は生じない」と結論づけていた。
これに対し知事意見は「環境保全上、重大な問題がある。評価書の環境保全措置では生活環境や自然環境の保全は不可能」と真っ向から否定する内容だ。
米軍が沖縄に年内配備予定の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの影響評価がなかったり、絶滅危惧種ジュゴンへの影響予測が適切でないなど、百七十五件にもわたる「不適切事項」も指摘している。
環境への評価が政府と沖縄県でこれほどまでに分かれたのは、評価書が辺野古移設を強行するために環境への影響を過小評価した内容だからではないのか。
防衛省の沖縄防衛局が混乱を避けるためとして夜陰に乗じて県庁に運び込んだ代物でもある。県側の信頼が得られないのも当然だ。
政府は、環境への影響はもちろん、知事意見で示された「地元の理解が得られない移設案の実現は事実上不可能だ。国内の他の地域への移設が合理的かつ早期に課題を解決できる方策だ」との県の主張を重く受け止めねばならない。
仲井真氏がこれまで繰り返し述べてきたことだが、政府に文書で伝えられたことの意味は大きい。
玄葉光一郎外相は知事意見について「しっかり受け止め、適切に対応する。普天間移設は強行できるわけではないので、丁寧に対応する必要がある」と述べた。
丁寧な対応は当然だとしても、それで県内移設に理解が得られる政治状況でないことに留意しなければならない。政府は辺野古移設を断念し、国外・県外移設の検討を米政府に提起すべきだ。
野田佳彦首相は二十六日から就任後初めて沖縄県を訪問する。
遅きに失した感はあるが、在日米軍基地の74%が集中し、重い基地負担を強いられた沖縄の実情に接し、県民の声に耳を傾けるのなら意味はある。県内移設に理解を得ようという下心からなら行かない方がよい。
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