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原発事故をめぐる賠償が思うように進んでいない。政府の原子力損害賠償紛争審査会の下に、話し合いの仲立ちをする解決センターが設けられて約半年になる。だが、申し立ては1千件ほ[記事全文]
収入が少ないお年寄りの年金を増やすことが、「社会保障と税の一体改革」の大綱に盛り込まれた。消費税の増税分から5千億円以上を投じる。その財源の一部にするため、裕福な人の年[記事全文]
原発事故をめぐる賠償が思うように進んでいない。
政府の原子力損害賠償紛争審査会の下に、話し合いの仲立ちをする解決センターが設けられて約半年になる。だが、申し立ては1千件ほど、和解がまとまったのは10件に満たない。
被害者は何十万人もいるだろうに、どうしたことか。
遅れている理由として、東京電力の姿勢をまず指摘する関係者が多い。
審査会は賠償の「中間指針」を定めているが、そこに詳しく書かれていない項目、たとえば被災地に残してきた家財の費用や、慰謝料の増額などが和解案に盛りこまれると、東電は回答を先送りするという。
ひとつの対応が全体に影響するため、慎重になるのもわからなくはない。だが迅速な賠償は東電の使命であり、社会への約束だ。自覚を求める。
状況を前に進めるため、センターは先ごろ、「障害者や乳幼児がいる場合は慰謝料を増やせる」など、中間指針を補う四つの「総括基準」を決めた。
審査会とセンターのこうした役割分担と連携は、はじめから予定されていた。今後も具体例を踏まえて指針や基準の充実に努め、すみやかで公平な解決に導いていってほしい。
交渉が進まぬ背景に、手続きにかかわる人たちの認識違いがありはしないか。
ふだん裁判所が行う和解のありようを引きずり、「全面解決か否か」という発想でのぞんでいては、この壁は破れない。
被害者と東電の間で、合意できる点とできない点を区分けする。前者については急いで賠償を済ませ、後者については他の被害者の例も検討しながら、多少時間をかけても解決の道を探る。そんな柔軟な対応が求められる。もちろん合意部分をなるべく増やし、持ちこす範囲は絞りこむ必要がある。
その意味で、センターが今後の取り組みとして「一部和解」や「仮払い」の促進を打ち出しているのは評価できる。
東電がセンターの提示する案を基本的に受け入れなければならないような制度にするべきだとの声も、以前からある。
だが、そうした仕組みがうまく機能するには、「判例」の積み上げがあり、仲介する機関が社会の信頼に支えられることが必要だ。形だけ整えても看板倒れになりかねない。
解決への力を高めていくためにも、いまは土台を固めるときだ。被害者の背負う荷を少しでも軽くするよう、努力と工夫を重ねてもらいたい。
収入が少ないお年寄りの年金を増やすことが、「社会保障と税の一体改革」の大綱に盛り込まれた。
消費税の増税分から5千億円以上を投じる。その財源の一部にするため、裕福な人の年金は減らす。来月、法案を国会に提出する方向だ。
心配な点がいくつもある。
厚生労働省が示した基本案によると、65歳以上で、年金を含む年間の収入が基礎年金の満額(76万8千万円)以下の人に一律で月6千円を加算する。
働いていた時の収入が低く、保険料の免除を受けていた人にはさらに上乗せし、単に未納だった人より優遇する。
昨年、検討された「月収7万円まで、最大1万6千円を加算する」という案より工夫されてはいる。
だが、不公平感は消えない。加算される人の年収が対象外の人を上回る「逆転現象」が起きる。上乗せについても、保険料の免除が可能だった期間も努力して満額を納めてきた人は、どう感じるだろうか。
基礎年金の満額は月6万4千円。6千円を足せば、民主党が新年金制度としてマニフェストに掲げた「7万円の最低保障年金」にイメージが近くなる。
新年金制度の見通しが立たないなか、「マニフェスト違反」との批判を避けるためだとしたら、姑息(こそく)である。
今回の案には、消費増税の負担感を和らげる効果も期待されている。しかし、無年金の人は結局、何も受け取れない。
そもそも年金制度の枠内で、低所得の高齢者を救済しようという発想に無理がある。
生活保護が必要な人にはきちんと支給されるよう運用を改善したり、住宅費を補助したりする方が効果的ではないか。いたずらに年金制度を複雑にせずにすむ。
高所得者の年金減額では、年収850万円以上の約24万人を対象に、最高で月3万2千円をカットする。
これは基礎年金のうち、税金で賄っている国庫負担分だ。そこを遠慮してもらう、という考え方には一理ある。
ただ、これまで国は「公的年金は国庫負担があり、お得な制度」と呼びかけてきた。保険料を払って年金を受けとっているのに、「余裕があるから」と急に減らせば、制度への信頼が大きく損なわれかねない。
むしろ、所得を総合的に把握したうえで、税金を課した方が納得が得やすいだろう。
制度の安定にかかわる話である。再考すべきだ。