十九歳一カ月で一家四人を殺害した被告と数年間、拘置所で面会を重ね、手紙のやりとりをしたことがある。「凄惨(せいさん)」という形容詞が陳腐に思えるような残忍な犯行と、罪に向き合おうともがく姿は同じ人物には見えなかった▼「僕の経験を反面教師として役立ててもらえれば…」。そんな手紙を最後に、十年前に死刑が確定した後はやりとりは途切れた▼内省を深める被告を死刑にしていいのか。否、あまりに身勝手で残虐な犯行は少年時代の犯行とはいえ、自らの命で償うしかない。思いは交錯し、答えは今も出せない▼山口県光市で起きた母子殺害事件の差し戻し上告審で、最高裁はきのう、当時十八歳一カ月だった少年の上告を棄却した。無期懲役、無期懲役、差し戻し、死刑−。司法の判断も揺れた裁判は、極刑が確定する▼言動に幼さが目立つ被告だった。父親からの虐待で人との関係がうまく結べない人格的な未熟さも背景にあったのだろう。死刑事件では極めて異例の反対意見が一人の裁判官から付されたことは、激しい意見の対立があったことをうかがわせる▼判決の後、遺族の本村洋さんは「今回の判決に勝者はなく、犯罪が起こった時点で、皆、敗者です」と語った。家族を守れなかった絶望感に打ちのめされ、蚊帳の外だった犯罪被害者の権利の向上のために闘い続けた青年の言葉をかみしめている。