イランが核燃料の自力生産に成功したと発表した。米欧の制裁にも屈せず、最終的な目的は核兵器製造ではないかとの疑惑が一層深まる。不安定な中東にまた、深刻な危機が広がっている。
イラン政府は高性能の遠心分離機が完成して稼働を始め、ウラン濃縮の能力が三倍になると公表した。国産の核燃料を研究用原子炉に装填(そうてん)する作業にはアハマディネジャド大統領自らが出席した。
それほど高い技術を持つのか、米欧の専門家には疑問視する見方もあるが、核活動はここ数年、急速に進んでいるのも事実だ。
米国と欧州連合(EU)はイラン産原油の輸入禁止を決め、米国は金融制裁にも踏み切った。イラン国内は深刻な経済危機に直面しているが、大統領もイスラム教聖職者も医療用アイソトープ製造など民生用だと言い、「核開発は固有の権利だ」と譲らない。
一方で対話姿勢も示す。国連安保理事会の五常任理事国にドイツを加えた六カ国との協議に前向きだ。自らの核開発能力を高めた上で交渉に臨み、相手の譲歩を引き出して制裁を緩和させるという瀬戸際戦略ではないか。「第二の北朝鮮」にしてはならない。特に六カ国のうちイラン寄りの中国とロシアは、民生用には不要なウラン高濃縮の中止を強く迫るべきだ。
国際原子力機関(IAEA)の調査団が来週、イランに入る。核施設への立ち入りができるか、「核の番人」の真価が問われる。
懸念されるのはイスラエルが核施設攻撃も辞さないと強硬なことだ。オバマ米政権は自制を求めているが、もし空爆を強行すればイランも必ず報復するだろう。弾道ミサイルでの反撃に加えて、レバノンに拠点を置く親イランのイスラム教シーア派組織ヒズボラが、イスラエルに局地的な攻撃を仕掛ける恐れさえある。
イランが石油輸送の大動脈であるホルムズ海峡を封鎖すれば、原油価格は高騰し世界経済に深刻な影響が出る。
イランと六カ国との協議が再開されれば、事態はいったん沈静化に向かおう。軍事衝突は何としても避けねばならない。米欧は制裁と並行して対話の道を探り中ロ、さらにトルコや湾岸諸国にも積極的な外交を望みたい。
日本はイラン産原油の輸入量を削減するが、イランとの関係自体は悪くはない。直接対話をし、核開発中止を説得する役割も考えるべきではないか。
この記事を印刷する