HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17828 Content-Type: text/html ETag: "bee5ff-4039-63e88340" Cache-Control: max-age=5 Expires: Thu, 16 Feb 2012 01:21:18 GMT Date: Thu, 16 Feb 2012 01:21:13 GMT Connection: close 朝日新聞デジタル:天声人語
現在位置:
  1. 朝日新聞デジタル
  2. 天声人語

天声人語

2012年2月16日(木)付

印刷

 「私よりも私のことを知っている」と言えば、人と人の親密さの表現だった。最近はどうも違う。ネットで書籍を買っていると、まさに自分好みの本を先方が薦めてくる。購入歴が蓄積されるほど「おススメ」は琴線を心得てくる▼便利でいて、ふと不安になる親密さだ。相手は私をかなり知っている。その気なら、読書傾向から「思想調査」も可能だろう。本ばかりではない。ネットショップ、電車のIC乗車券、クレジットカード、診察券、携帯――。日々のあらゆる行動が電脳空間に記憶、蓄積されていく▼いまのところデータは散在している。しかし誰かが何かの意図で寄せ集めれば、「私」はたちまち裸にされてしまう。そんな電子網への危惧が募る時代に、政府の「共通番号制度法案」が閣議決定された▼国民1人ずつに番号をつけて所得や年金、診療などの個人情報を管理する制度だが、政府の調査ではまだ8割の人が内容を知らない。管理が監視にならないか? 悪用の恐れは? すでにご存じで利点は承知の人も、心掛かりは様々あろう▼9年前には個人情報保護法ができた。人と人とのつながりを断ち切る方にアクセルが踏まれ、人間砂漠の乾燥は進んだ。横の絆が細る中、与えた番号で国が個々と縦につながる図も、思えばいびつだ▼大がかりな仕組みの総番号制を、時の権力に好きに使わせない歯止めも要る。番号という「絆」が、もとの意味の「動物をつなぐ綱」になっては困る。周知と議論がもっと欲しい。