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2012年2月16日(木)付

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東電処理と電力改革(上)―国民負担は避けられない

■国の責任でリストラ徹底

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 かつてない原発事故を起こした東京電力をどのように処理していくか。それは、電力システム改革への試金石ともなる。

 2回にわけて、私たちの考え方を示したい。

  ◇  ◇  ◇

 福島第一原発の事故にともなう巨額の費用は、東電に徹底的に負担させる。ほとんどの人は異論あるまい。

 しかし、とても追いつかないだろう。最後は、電気料金や税金の形で国民が負担せざるをえない。

 これが東電処理の現実だ。

 政府がいま進めている計画を確認しておこう。

 経営難に陥っている東電に対し、1兆円の国費を資本注入することは既定路線だ。

 電力の供給が滞ったり、金融市場が混乱したりするのを避けるための措置である。

 ところが、東電の3分の2超の株式を取得して、経営に直接、責任を負うことには、財務省から慎重論が出ている。将来的な財政負担につながりかねないという理由からだ。

 国が必要な資金を出すにしても、あくまで「当面」のこと。民間企業としての東電を残し、いずれは返してもらう――。そんな思惑である。

 国民負担の回避という点で、この理屈は一見、もっともらしい。東電の賠償資金を国が支援するために施行された原子力損害賠償支援機構法も、そうした考え方に立っている。

 だが、長い目で見て、いまの東電を存続させることは合理的なシナリオだろうか。

 東電から確実に返済させるには、できるだけ稼いでもらわなければならない。それには、東電の地域独占を守り、電力市場への新規参入はできるだけ少なくしたほうが得策だ。

 つまり、電力改革にはまともに手をつけないということになる。発電所売却などの思い切ったリストラも進まない。

 経営陣には、賠償額をできるだけ抑えようという誘因がはたらく。被害者との交渉は、いま以上に遅れかねない。

 それでも、東電が必要な資金を捻出するのは至難のわざだ。

 廃炉費用ひとつとっても、溶け出した核燃料の回収は手法のめどすら立っていない。

 ふつうに寿命を迎えた原発でも、廃炉には数百億円かかるとされる。ましてや事故炉が4基だ。最終撤去まで30〜40年かかる。総額が兆円単位に膨らむことは間違いない。

 福島第一原発の残り2基と福島第二原発の4基も含めれば、費用はさらに増える。

 足元では、火力発電の増強による燃料代の高騰が経営をゆさぶる。除染の費用は、いくらになるか見当もつかない。

 追い込まれる東電は新規投資を手控えるだろう。電力設備の保守すら危うくなれば、首都圏の電力供給に支障が出る。

 結局、財政負担を回避するため、東電に利益を確保させようとすると、首都圏の企業や家庭に、法外な料金値上げを求めざるをえない。

 もう一方の道は、国民負担を覚悟のうえで、国が経営権を握るルートだ。

 今回の事故の責任は一義的には東電にあるが、原子力発電は「国策」でもあった。政府が推進し、建設を許可し、安全対策への怠慢を放置してきた。国にまったく責任がないと考える人はいないはずだ。

 薬害エイズやB型肝炎では、政策責任をとって国が被害者の救済や賠償を担った。今回の後始末も、最後は国として引き受ける。そこさえ腹を決めれば、東電処理を電力市場の新しい可能性へとつなげられる。

 国有化の最大の意味は、そこにある。

 もちろん、国民負担は最小限にとどめるべきだ。そのためには、まず東電のリストラを徹底し、負債にあてる原資を最大限ひねり出す必要がある。

 東電は実質的に債務超過の状態だ。本来なら、市場のルールに従って破綻(はたん)処理されるはずの企業である。

 株式の価値はゼロにする。東電は剰余金を相当取り崩したものの、9千億円ほどの資本金がある。国民の税金が投じられる以上、株主が損失を負担するのは当然だ。

 金融機関にも一定の債権放棄を求める。

 融資先の事業リスクを審査してリスクに見合った金利をつけることで市場の規律を働かせるのが金融の役割だ。

 にもかかわらず、銀行は東電に有利な条件で資金を提供してきた。地域独占の電力会社は何があっても政府が守るという暗黙の理解があったからだ。

 それは、原発リスクを過小評価してきたことの裏返しでもある。金融機関は結果責任をとらなければならない。

 社債(東電債)は担保付きであり、扱いはむずかしい。ただ東電の電気事業の価値そのものは大きく毀損(きそん)している。担保の目減りを社債の償還額に反映させる考え方もあるはずだ。市場との対話を重ねながら、方法を探るべきだ。

 得られた資金は被害者への賠償に優先的にあてる。次のステップに進むため、できるだけ早く解決しなければならない。

 もちろん、経営陣は交代させる。トップだけでなく主要な部署のリーダーには社内外から改革の意思のある人物をつけ、社員の問題意識や新しいアイデアを引き出す。

 発電所などの資産を大胆に売却したり、切り離したりする。関連会社との不透明な取引は排除する。社員の処遇は根本的に見直す。企業年金も破綻企業と同じ扱いとし、OBから早期に減額への合意をとりつける。

 それでも足りない分は、やはり料金値上げに頼らざるをえない。ただし、リストラを徹底するぶん、上げ幅は小さくできるはずだ。

 どちらを選んでも、料金値上げという国民負担が避けられないのなら、国が経営権を握るほうがいいのは明らかだ。

 原発事故による損失の総額を現時点で見通すことはむずかしい。電力改革が進むと、他の事業者に乗り換える企業や家庭も増えるだろう。東電自体、解体が進むため電気料金による回収にも限界がある。

 最後は、原発を推進してきた国の責任として、原子力予算を組み替えつつ、税金での穴埋めを検討する必要がある。

 国の財源に余裕がないことを考えれば、例えば東電の送電網を利用することに課税してはどうか。そうすれば東電管内の電気を使うすべての人が負担することになる。

 なお不十分な場合は、全国的に課税ベースを広げる。東電管内だけ税率を高くするなどして、納得を得る努力も必要になるだろう。できるだけ日常生活や経済への影響を少なくするよう工夫したい。

 どれも簡単ではない。だが、原発事故が提起した問題には、国民全員で向き合うしかない。それが、福島の人たちを自分のことと考え、一人ひとりが今後のエネルギー政策を真剣に考えることにつながる。

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