米原子力規制委員会(NRC)が三十四年ぶりに原発の新規建設を認可した。福島第一原発の事故を教訓に徹底した安全対策を望むが、新型原子炉は建設費も高く増設が急速に進むとは思えない。
南部ジョージア州のボーグル原発で、東芝子会社の米ウェスチングハウス(WH)製の加圧水型原子炉「AP1000」二基の建設が認められた。
テロや災害も想定して設計され、二〇一六年と一七年の運転開始を目指す。
NRC委員五人のうち四人が認可に賛成したが、ヤツコ委員長だけは「福島第一の事故を教訓にした安全対策が十分に講じられていない」と反対した。オバマ政権の期待とは異なる見解を公表し、委員長の強い独立性を示したといえよう。
米政府はスリーマイルアイランド原発事故(一九七九年)をきっかけに新規建設を凍結してきたが、オバマ大統領は就任早々、地球温暖化防止と雇用創出の両面から「原子力ルネサンス」を提唱して原発推進を掲げた。NRCの決定は弾みになろう。
しかし、米国でも原発には一層厳しい安全基準が求められる。コスト増大を考えれば、原発建設が加速化する状況にはない。
米国では岩盤層に溶け込む天然ガスの一種であるシェールガスの採掘と採算性に見通しがついた。ボーグル原発の建設費は約百四十億ドルで、米政府が八十三億ドルの債務保証をする。初期コストはガス火力発電所の約五倍で、建設認可も火力より時間がかかる。
昨年末までに二十六基の建設申請が出ているが、米業界団体は二〇年度までの新設認可は今回分も含めて四基程度にとどまると慎重な見通しを示した。投資家もまだ様子をみており、雇用拡大もすぐには実現しそうにない。
全米で稼働する百四基のうち半数は建設後三十年を超える。老朽化した原発に多額の安全対策費を投じるのが得策かどうか。
シェールガスのほか太陽光、風力など再生可能エネルギーと、電力の利用効率を高める送電網スマートグリッドの開発など、米国には新しい道筋を付ける政策を望む。
日本政府は停止中の原発の安全が確認されたら順次再稼働したい意向だが、米国での新設認可は参考材料にすぎない。住民の不安や疑問に十分答え、稼働の効率やコストでも本当に見合うのかどうか慎重な対応が必要だ。
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