米軍普天間飛行場が中心部にある沖縄県宜野湾市で「自公」系市長が誕生した。とはいえ、訴えたのは、名護市辺野古への県内移設の困難さだ。野田内閣は「直近の民意」を見誤ってはならない。
九百票差の激戦を制したのは自民、公明両党など推薦の佐喜真淳元県議。いわゆる保守系で革新からの市政奪還は二十六年ぶりだ。
市長選に合わせたかのように告示後の八日、日米両政府は在日米軍再編のロードマップ(行程表)見直しを発表した。
普天間飛行場の辺野古移設が進まなくても在沖縄海兵隊の一部をグアムに先行して移駐させ、米空軍嘉手納基地より南の五米軍施設・区域の返還も協議する内容だ。
地元では普天間飛行場が固定化されるとの危惧が高まり、早期返還実現に向けて政府との対決よりも対話を重視する佐喜真氏に支持が集まったのだろう。
佐喜真氏が選挙で県内移設は「事実上困難」と言いながら、かつては容認していたことから、野田内閣にはいずれ姿勢を軟化させるとの期待があるかもしれない。
それが、真部朗沖縄防衛局長の職員への「講話」という形での選挙介入につながったのだろう。
しかし、佐喜真氏は開票から一夜明け、県内移設「反対」を明言し、公有水面埋め立て権限を持つ仲井真弘多県知事と足並みをそろえた。稲嶺進名護市長も「受け入れ断固拒否」を堅持している。
野田内閣は、県内受け入れに転じるような沖縄の政治状況でないことを直視しなければならない。
にもかかわらず、野田佳彦首相は「辺野古移設が最善の選択肢」との考えを変えていない。辺野古に固執する限り、代替施設の建設が進まず、その間、普天間の「世界一危険」とされる状態は続く。
あってはならないが、万が一、普天間で事故が起きれば沖縄の反基地感情が高まり、日米安全保障条約体制の円滑な運営にも影響が出かねない。なぜそのことに思いが至らないのか、理解に苦しむ。
それにしても、安全保障、特に在日米軍基地の約74%が集中する沖縄県民の基地負担軽減に向けた民主党の無策ぶりは目に余る。
今回の市長選で、民主党は候補者を擁立できず自主投票だった。鳩山由紀夫元首相が「最低でも県外」移設を掲げて挫折した影響なのだろうが、政権政党が基地負担軽減への道筋を示そうとしないのは責任放棄にほかならない。
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