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民主党が09年総選挙のマニフェストに掲げた新年金制度案について、財政試算を公表した。はっきりしたのは、消費税でどの人の年金も月額7万円以上にする「最低保障年金」を導入し[記事全文]
昨年も全国で自殺が3万人を超えた。最多の03年から4千人近く減ったが、いぜん深刻だ。政府の分析では、無職の人が半分を占める。なかでも中年男性の自殺死亡率が高い。妻や夫と[記事全文]
民主党が09年総選挙のマニフェストに掲げた新年金制度案について、財政試算を公表した。
はっきりしたのは、消費税でどの人の年金も月額7万円以上にする「最低保障年金」を導入した場合、社会の多数を占める中間層の年金が減ることだ。
支払う保険料はさほど下がらない。にもかかわらず、消費税分の払いが増え、しかも肝心の年金が減る。
現役時代の収入が低かった人に最低保障年金を上乗せし、現行制度より受け取りを増やす設計になっているためだ。
貧困救済は大切だ。ただ、年金で行おうとすると、弊害も大きい。民主党議員は、有権者に胸を張って説明できるのか。
三つの視点で考えてみたい。
一つは、この制度を現実に運用する難しさである。
この案では自営業者もサラリーマンと同様、所得に応じた保険料を払う。サラリーマンなら会社が半分もつが、自営業者は全額を自分で払う。きちんと払ってくれるだろうか。
一方、自営業なら経費を水増しして所得を低く申告すれば、より多くの最低保障年金を受け取れる。よほど所得把握を厳正にしないと、不公平感が強まるだろう。
二つめは、新制度が理想的に運営できても、すっきり解決する問題は何もないことだ。
新制度への移行は40年以上かかるので、現時点で低年金・無年金の貧しい高齢者に恩恵はなく、消費税は余計に払う。将来的にも、保険料が未納の人には年金は払われない。
民主党は、新制度の方が現役や将来世代の信頼感は高まる、と主張する。
本当だろうか。新制度も現役世代の負担で高齢者を支える「仕送り方式」だ。そこは現行制度と同じで、少子高齢化の影響を免れることはできない。
三つめは、社会保障と税の一体改革に関する与野党協議への影響である。
野田政権は1月に決めた一体改革の「素案」で、新制度を実現する法案を来年提出すると明記した。
しかし、野田政権が優先すべきは、一体改革を進める法案の成立である。消費増税を実現して財政を少しでも安定させ、少子化対策などの財源を確保しなければならない。
新制度案はその妨げとなる。あまりに問題が多く実現性も乏しいのに、いま、与野党で議論するのが得策とは思えない。
新制度の法案提出はあきらめ、民主党内で頭を冷やして検討し直すべきだ。
昨年も全国で自殺が3万人を超えた。最多の03年から4千人近く減ったが、いぜん深刻だ。
政府の分析では、無職の人が半分を占める。なかでも中年男性の自殺死亡率が高い。妻や夫と離婚や死別をした人も、率が高い。仕事や家庭での「役割喪失感」にさいなまれるのではないかという指摘もある。
人との接点が少ないと、気持ちが傾いたときに歯止めがかかりにくいのかもしれない。だとすれば、接点を作ることで救える命があるのではないか。
参考になる取り組みの一つが東京の下町、足立区にある。
区は09年までの5年間で自殺者が都内最多だったことから、NPOのライフリンクと手を結び、対策に力を入れた。昨年は自殺者が145人いたが、前年に比べれば2割も減った。
自殺を考える人の多くは、失業、多重債務、うつなど複数の悩みを抱えている。自殺者の7割は何らかの相談窓口を訪ねていたという調査もある。
ならば、相談に来た人からリスクの高い人を見つけて支えよう。そう考えて窓口や相談機関のネットワーク化を進めた。
例えば、失業してハローワークを訪れた人が多重債務や不眠を打ち明けたら、弁護士や保健師につなぐ。それだけでなく、必要な支援を次の窓口で受けられたかまでフォローする。
ハローワーク職員や弁護士、保健師らの専門家がそろう総合相談会を定期的に開いている。危険に気づく力を養うゲートキーパー(門番)研修も区職員の3分の2が受けた。
心を病み、窓口に行く気力もない人もいる。来年度からはNPOに委託し、そういう人に寄りそって一緒に窓口をまわる専門員をやとう予定だ。
悩み相談の場や「男の料理教室」といった居場所を探せる検索サイトをつくる計画もある。おもなターゲットは、地域のつながりが薄くなりがちな中高年の男性だ。
内閣府は、この春をめどに自殺総合対策大綱を見直す。一人ひとりに気づきと見守りを促すという方向性は同じだ。
もちろん、人口規模など地域の実情によって対策はかわる。高齢者への戸別訪問で成果をあげている地方都市もある。
簡単には効果が表れないかもしれない。しかし悩む人を放っておかない街をつくれば、それは結局だれにとっても住みやすい街になるのではないか。
震災をきっかけに「絆」が強調されている。絆を実感できずにいる人にこそ、一歩踏み出せる足場を提供したい。