日本の環太平洋連携協定(TPP)交渉参加に向け日米事前協議が始まった。米国が目指す高水準の自由化に戸惑う国は多い。日本はアジア各国と連携し、柔軟なルールづくりにも気を配るべきだ。
TPPはシンガポールなど二〇〇六年の発効時の四カ国に加えて米国などが新たに参加表明し、現在九カ国で拡大交渉が行われている。日本の参加には交渉国すべての了承が必要で、既に四カ国から同意を得た。
難関は七日に始まった対米事前協議だ。日本は九千を超える全農産品、鉱工業品などを自由化交渉の対象とする方針を説明した。
TPPは例外なき関税撤廃が原則なので、まずは自由化交渉のテーブルに乗せ、本交渉入り後に778%の高関税で守っている主食のコメの例外扱いなど、柔軟な規約づくりを求めるのだろう。
TPP交渉を主導する米国は自動車、牛肉、かんぽ生命の三分野で一段の市場開放を求めてきた。日本の交渉入りを認めるには、事前協議の成果を基に交渉権限を議会から取りつけなければならない。米自動車業界は「日本市場は閉鎖的」と批判し、軽自動車の規格廃止をほのめかすなど強硬だ。
米側の要求には耳を傾けるべきだが、二〇〇〇cc以下の日本向け乗用車はわずか一車種。顧客サービスをおろそかにした要求に後ずさりしてはならない。配慮すべきは、TPPの自由化要求に腰を引き、交渉参加に二の足を踏むタイなどのアジア諸国だろう。
オバマ米大統領は一般教書演説で、米国の稼ぎ頭の金融部門がリーマン・ショックで揺らいだ米国の窮状を背景に、自らを「太平洋国家」と位置づけ、モノづくりを通じたアジア重視を鮮明にした。
「拘束性」が米国のキーワードだ。例外なき関税撤廃などの規約を厳守させ、輸出を拡大して国富を増やす狙いが込められている。
だがアジアでは日中韓や中韓、東南アジア諸国連合+6(日中韓、インド、豪州、ニュージーランド)など多様な組み合わせで自由貿易協定への手探りが続く。当の米国も含む二十一の国・地域で構成するアジア太平洋経済協力会議が工業化の遅れなど各国の実情に応じ「多様性」「柔軟性」を認める行動指針を大阪会合で打ち出した経緯もある。
拘束性に過度にこだわっては、途上国を含むアジアの繁栄はむしろ危うさを増すだろう。日本が米国との交渉力を強めるには、アジアとの連携がカギを握る。
この記事を印刷する