ロシアの首都モスクワで、ソ連崩壊以降、最大規模の反政権デモが行われた。プーチン首相が返り咲きを狙う来月の大統領選を前に、怒れる中間層による民主化運動の様相を呈してきた。
氷点下二〇度前後のモスクワ中心部で四日、主催者発表で約十二万人が行進し、昨年十二月の下院選挙のやり直しとプーチン氏の大統領復帰阻止を訴えた。
政権は最近、投票での不正対策や政治改革をアピールするが、反政府行動は衰える気配はない。プーチン氏はデモで示された政権不信を受け止め強権的な政治体制の改革に本格的に取り組むべきだ。
デモ参加者はリベラル派から民族派までさまざまだが、中心は特定の支持政党を持たない中間層の市民だ。平均月収が千ドルから千五百ドルで生活に余裕があるそうした人々は人口の約二割を占める。
いわばプーチン体制下で経済成長の恩恵を受けた人々がプーチン氏に公然と反旗を翻した背景にあるのは、ロシアが深刻な停滞に陥るのではとの懸念だ。二〇〇八年のリーマン・ショックの影響で資源輸出に偏重したいびつな経済の実態が露呈し経済成長も頭打ちだ。汚職は悪化の一途で社会に閉塞(へいそく)感が充満していた。
不満の導火線に火を付けたのがプーチン氏とメドベージェフ大統領の密室でのポスト交換だ。ネット愛好者のメドベージェフ氏に期待していた人々が「騙(だま)されていた」と感じたのも当然だ。
デモ拡大で決定的な役割を果たしたのはフェイスブックなどインターネットのソーシャルメディアだ。政権は経済の「近代化」の目玉にIT産業を育成しロシアは、欧州有数のネット大国に成長していた。ネットを主な情報源にする中間層にとり、報道統制は既に形骸化した。情報革命は権力に従順なロシア人の政治意識をも劇的に変えつつあるのではないか。
これに対しプーチン氏の出身母体で政権中枢にある旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身者からなる強硬派は締め付け強化を狙う。
焦点は大統領選挙が決選投票にもつれ込むかだ。独立系世論調査でプーチン氏の支持率は四割に満たないが権威低下を心配する政権側は一回目の投票で勝利を宣言する方針との観測が有力だ。不正疑惑が再燃すれば、反政府デモはさらに拡大しよう。プーチン氏は決選投票を恐れてはいけない。正統性の回復には公正かつ透明な選挙が必要だ。
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