日米両政府が沖縄県に駐留する米海兵隊員の一部をグアムに先行して移駐させることで合意した。米軍普天間飛行場を県内ではなく国外・県外への移設を提起する好機だ。逃すべきではない。
二〇〇六年の日米合意では宜野湾市の普天間飛行場を名護市辺野古に、海兵隊員約八千人とその家族約九千人をグアムに移し、同時に米空軍嘉手納飛行場より南の六施設・区域を日本側に返還することになっていた。
合意はこれまで一つのパッケージとされており、海兵隊員らのグアム移駐が辺野古移設と切り離された意味は大きい。一つは、政府間合意は一方の政府の事情で変え得ることを示した点だ。
米側は沖縄県外に移す海兵隊員八千人のうち四千七百人をグアムに、残りはハワイやオーストラリアなどに分散させるとみられる。
これはオバマ政権が打ち出したアジア・太平洋重視の新たな国防戦略、国防予算の削減方針を受けた対応で、いわば米側の事情だ。
ならば、日本側も在日米軍基地の約74%が集中する沖縄県民にこれ以上の基地負担を押し付けるのは困難だと伝え、国外・県外移設の検討を堂々と提起すればよい。
海兵隊の分散移駐は機動力、展開力の高さを示す。沖縄に常駐する必要は必ずしもないのだ。
地元の声には耳を貸さず、米国の顔色ばかりをうかがって言い出せないとしたら何とも情けない。
注意を要するのは、海兵隊の先行移駐で普天間飛行場が固定化されるという心配がことさら強調され、辺野古移設やむなしという機運が醸成されかねないことだ。
野田佳彦首相は参院予算委員会で「普天間飛行場の固定化につながらないよう、政府として全力で協議を進める」と述べた。
世界で一番危険とされる普天間飛行場が固定化され、継続使用される事態を避けるべきなのは当然だが、それが辺野古移設を後押しすることになってはならない。
議論されるべきは普天間か辺野古ではなく、沖縄県民の基地負担軽減だ。野田内閣は普天間返還問題の本質を見誤るべきではない。
県民の負担軽減のためには、キャンプ瑞慶覧、那覇軍港など〇六年の日米合意に盛り込まれた六施設・区域の返還も急務だ。普天間飛行場返還の進展とは関係なく、海兵隊員の分散移駐と並行して返還を進めるべきである。
この記事を印刷する