HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 05 Feb 2012 20:21:45 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 文明の対話に向かって:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 文明の対話に向かって

 アラブの春が第二幕を迎えている。革命に続く政治です。その主役は伝統的なイスラム主義勢力になりそうです。西欧文明との対話こそが欠かせません。

 昨年暮れ、フランスとトルコの間で起きた文明摩擦のようなことから話しましょう。

 発端はフランスの国民議会(下院)による法案の可決でした。それは第一次大戦中、オスマン・トルコ領内で起きた多数のアルメニア人殺害について、大量虐殺であって、公の場で否定してはいけない、というものでした。

◆虐殺めぐる言い争い

 キリスト教国のアルメニアは、トルコによる虐殺で百五十万人が犠牲になったと主張。これに対しイスラム教徒が大半のトルコは、虐殺ではなくアルメニア系住民をロシアへ移動させる中で起きた衝突だったと言います。両国世論は沸騰し首脳同士が言い争う。

 トルコのエルドアン首相。「フランスのイスラム嫌いがはっきりした。だが、貴国こそ旧植民地アルジェリアでイスラム教徒を虐殺してきたのではなかったか」

 フランスのサルコジ大統領は素っ気なかった。「(法案可決は)自国の主権の下に行った。わが国は人権と記憶を尊重する」

 この騒動には仏大統領選向けの戦術という見方が出ました。右派票の取り込みです。もちろん見方にすぎないにせよ、そうならば、欧州とイスラム世界との間に横たわる見えざる断絶をのぞかせたといえるでしょう。

 前世紀までが文明衝突の時代であったのなら、この二十一世紀は文明の接近と対話の時代であるべきです。それは人類に対する重大なテストであり、そのテストの一つがアラブの春の行方です。

 アラブの春を文明的視点で振り返れば以下のようになります。

◆試されるのは欧米か

 いわゆる近代に入り、進歩と発展は、イスラムと東洋に代わり西欧文明のものになった。それは事実ですが、西欧の政治家、また知識人においてすらイスラムの伝統や文化、価値観が後進的で発展を妨げたと唱えもしたのです。

 だが実態はどうだったのか。

 アラブ世界の発展を真に妨げてきたのは、西洋の植民地政策であり、欧米に従属的な国王や独裁政権だったのです。イスラムは皮肉にも自国の王権や政府により抑えられてきたのです。秘密警察や拷問、賄賂の横行。捕まる側からすれば、欧米による新植民地主義の犠牲者だともいえます。

 蓄積されたマグマの噴出、アラブの春は歴史の必然でした。

 火を付けたのは不公平に抗議する若者たちでしたが、それと同時に長く抑圧されてきたイスラム勢力が前面に出てきたのも当然でした。新しい権力闘争です。

 チュニジアでは、イスラム主義政党が選挙で多数を占め世俗主義政党と連立政権を組み、エジプトでもイスラム主義政党のムスリム同胞団が選挙で勝ちました。

 文明の問題はここから始まります。欧米諸国は、だれが選挙に勝ち、その国の主導権を取ろうともそれを正当な代表者として、本当に受け入れるのかどうか、ということです。異なる価値観をどう認めるか。イスラムの側からすれば試されているのは欧米です。

 過去千年、二千年の単位で見れば、文明はそれぞれに発展してきました。歴史学者トインビーは文明とはそれ一つで自己完結できる単位と定義した。米国、欧州、中国、ロシア、インド、日本、イスラム世界など。そして文明は相互の争いと摂取により発展すると結論づけたのでした。例えば日本は中国や欧米という異文明の摂取で発展してきたのです。

 神の言葉コーランに忠実なイスラム主義と人民がすべてを決めうる西欧型民主主義とは相いれないでしょう。しかし人間の公平や公正、博愛を求めることにおいては同じです。人類の普遍的価値観というものです。イスラムの伝統と文化のうえにデモクラシーを築くイスラム型民主主義は聞き慣れなくとも実在するのです。経済発展著しいトルコやインドネシアを思い浮かべてください。

◆今世紀の人類の宿題

 文明は少なくとも接近するべきです。どこが違いどこが同じなのか、相手をよく知ることです。エジプトの進路はエジプト人が決めますが、キリスト教の欧州と対話し共存するかはこれからのことです。冒頭のフランスとトルコのような争いが起きるなら対話でなく離反に向かいます。

 一九九〇年代初め、世界の耳目を集めたハンチントン氏の文明の衝突論は、冷戦後の争いの原因は宗教や民族の違いになると予測した。それは不幸にもユーゴ紛争で的中したのでした。アラブの春が新しい衝突の火種になるか否か。それは今世紀の人類に課せられた大きな宿題だとも思うのです。

 

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