犯罪に、いい犯罪も悪い犯罪もない。その通りだが、やはり「区別」はある気がする▼一九三〇年代に、米国に実在した犯罪者ジョン・デリンジャーは銀行強盗は平気で繰り返したが、一般客は狙わなかった。そして、彼を描いた少し前の映画の中では、仲間から誘拐を持ち掛けられても、こう言ってきっぱり断る。「誘拐は好きじゃない。大衆が嫌う」▼人を騙(だま)すのも同じ。相手が誰ならいいということは無論、ない。だが、やはり「区別」はある。騙すにことかいてこういう人を…と、強い憤りを覚えるのは、震災被災者や原発事故の避難者の不安につけ込む連中である▼例えば、国民生活センターが注意を呼び掛けている悪質な「開運商法」。雑誌広告を見て「願いがかなう」数珠やブレスレットを買うと、「使い方」の説明をするから電話せよとの手紙が。その電話で、購入者に身の上話などさせ、脅しすかしでさらに“開運商品”を買わせるらしい▼被災者からの相談も多く、宮城県の五十代女性の場合は、電話で「仮設住宅に住んでいる」などと話した結果、さらに水晶玉などを買うはめに。振り込まされたのは見舞金の全額五十万円だった…▼既に奪われた人から奪うとは、ペテンにしてもあまりに卑劣なペテン。<ペテンはわが身にはねかえる>と西諺(せいげん)はいうが、当然、ひときわ手酷(てひど)く、でなければならない。