真部朗(まなべろう)沖縄防衛局長が宜野湾市長選での投票を職員に促す講話を行った背景には、選挙介入も躊躇(ちゅうちょ)しない防衛省の体質がある。組織の悪弊を断ち切らねば、同じことを繰り返さないとも限らない。
講話の発覚後、真部氏は田中直紀防衛相らの事情聴取に応じ、衆院予算委員会の集中審議にも参考人として出席した。
この中で明らかになったのは、防衛省ぐるみの選挙介入と受け取られかねない行為が、今回の宜野湾市長選に限らず、沖縄県内の自治体選挙でたびたび行われていたことだ。
仕事とはいえ、政府が進める基地政策に地元の理解を得る労苦は分からないでもないが、国家公務員の地位を利用して特定候補への支持を促していたとすれば、公職選挙法などに抵触する可能性もある。見過ごせない行為だ。
十二日投開票の宜野湾市長選の告示は五日に迫る。立候補を予定する伊波洋一(いはよういち)元市長と佐喜真淳(さきまあつし)県議はともに米軍普天間飛行場の県内移設に反対しているが、具体論では意見を異にする。
講話問題が普天間問題を争点の一つとする市長選に影響を与えてはならない。更迭は当然だろう。
藤村修官房長官は当初、真部氏の講話について「いいことだという評価が出るかもしれない」と語っていた。内閣の要として認識が甘すぎるのではないか。
ただ、真部氏に対して「トカゲの尻尾切り」をしても、問題は解決しない。組織の問題だからだ。
日米両政府が普天間飛行場返還に合意した一九九六年以降、沖縄県内で普天間問題が大きな争点になったのは、九七年十二月の名護市での住民投票が最初だ。
沖縄1区(那覇市など)選出の下地幹郎衆院議員は予算委で、普天間代替施設受け入れの是非を問うこの住民投票以降、十回の自治体選挙で、那覇防衛施設局(現沖縄防衛局)ぐるみの選挙介入が行われたと指摘した。
政府はまず、沖縄での選挙介入の実態解明に全力を挙げ、再発を厳に防ぐ措置を講じなければならない。
自衛隊や米軍基地がある沖縄以外の自治体でも、同様のことが行われていなかったかも過去にさかのぼって調べる必要がある。
防衛省は省内に業務適正化委員会を設置した。身内の調査で真相解明が進むのか甚だ疑問だ。省外のメンバーを起用した第三者機関による調査を求めたい。
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