HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 19464 Content-Type: text/html ETag: "72e7c3-469d-967545c0" Cache-Control: max-age=5 Expires: Sat, 04 Feb 2012 03:21:17 GMT Date: Sat, 04 Feb 2012 03:21:12 GMT Connection: close 朝日新聞デジタル:天声人語
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天声人語

2012年2月4日(土)付

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 暮れの宝くじが外れたあとのささやかな楽しみに、お年玉つき年賀はがきがある。今年も当たりを調べつつ、もらった賀状を眺めなおした。あらためて思うに、印字の宛名が多い。数えると半分を超えていた▼その4割は裏にも自筆の文字がない。近ごろはネットで注文すると印刷から投函(とうかん)まで代行するサービスもあるそうだ。水茎(みずくき)の跡もうるわしく――といった表現は死に絶えてしまうのかも知れない▼手書き時代のたそがれに、県立神奈川近代文学館で開かれている「作家と万年筆展」を見た(26日まで)。夏目漱石から現在活躍中の人たちまで、手書き原稿の迫力が静かに伝わってくる▼かしこまった書ではない。いわば普段使いの字ながら、伊集院静さんのなど、男でも惚(ほ)れそうな色気がある。ひるがえってパソコンに丸投げの拙稿を思う。「愛」と書くところをツータッチでai、「死」をsiと打てば、重みも実感も薄れる心地がする▼「書く」の由来は「掻(か)く」と同じで、石や木を引っかいて字を刻んだためという。それを踏まえてだろう、書家の石川九楊さんが述べていた。たとえば「殺す」と書くには相当な(心の)エネルギーが要るものだ、と▼その通りと思う。だが、そうした言葉もキーボードだと楽に打てる。心が字面(じづら)に追いつかないまま、言葉ばかりがインフレになり、安く流通しがちだ。激しい言葉に限らない。絆とkizunaは似て非なる字ではないか――などと、展示された万年筆を見ながら考えた。

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