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首相の諮問機関の地方制度調査会が今週から、大都市制度の議論を始めた。1990年代からの分権改革が、国と地方の関係の見直しを迫るなか、都道府県と大都市との役割分担も整理し[記事全文]
大型公共事業の見直しの象徴で、民主党マニフェストの柱の一つでもあった八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)の問題が、新たな段階に入った。政府・民主党内で賛否が対立したダ[記事全文]
首相の諮問機関の地方制度調査会が今週から、大都市制度の議論を始めた。
1990年代からの分権改革が、国と地方の関係の見直しを迫るなか、都道府県と大都市との役割分担も整理しようという時代の要請に沿う。
ひとつのきっかけは、橋下徹大阪市長の大阪都構想である。
大阪市を複数の特別区に分割して、産業政策などの広域行政は都が担い、住民サービスは区が受け持つという案だ。
これに対し、今春で全国20市に広がる横浜、京都など政令指定市の市長会は別のアイデアを掲げる。道府県と同等の権限を持つ「特別自治市」の創設を求めている。
人口が集中する大都市では、急速な高齢化や公共施設の老朽化が深刻化する。これに対応できる制度づくりが求められていることは確かだ。
大阪都構想や特別自治市という「地方発」の発想をたたき台に、自治の制度論議がすすむことを歓迎し、調査会の議論に大いに期待する。
そのうえで、具体的な協議にあたっては、二つの点を忘れないでほしい。
まずは、住民目線を原点にすえることだ。
大阪都構想はまだ制度設計の段階だが、橋下氏は1人の指揮官にして効率化することで、世界の都市との競争に勝てるという。この効率化が、指揮官に都合がいいだけでは、本末転倒だろう。住民の暮らしぶりの向上につながるか否かが、成否のカギを握る。
巨大な特別自治市も、個々の住民の生活に目が届かない危険性と背中合わせだ。
もうひとつは、議論を政治の駆け引きで、もみくちゃにしないことだ。
大阪都の実現には、国会での地方自治法の改正が要る。そのために橋下氏は、都構想への協力を各党に求めている。
民主党がやや慎重なのに比べて、野党は前のめり気味だ。
みんなの党や自民党は、すでに自治法改正案や骨子をまとめている。与野党とも年内の衆院解散・総選挙をにらみ、人気の高い橋下氏を敵に回したくないという思いがありありだ。
だが、これは自治制度の大改革だ。政党が衆院選に有利か不利かで、拙速に判断していい話ではない。
地方からの発案を尊重し、住民の意向を最大限にくみとることが大前提だが、国会でも中身の吟味が欠かせない。
地方制度調査会の委員の任期は来年夏まである。
大型公共事業の見直しの象徴で、民主党マニフェストの柱の一つでもあった八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)の問題が、新たな段階に入った。
政府・民主党内で賛否が対立したダム本体の工事について、政府は新年度予算案に関連費用を盛り込み、事業継続を打ち出した。
その際、官房長官の裁定として、ダムの予定地がある吾妻(あがつま)川を含む利根川水系の整備計画を早急に作ることになった。
本来、ダムの必要性は整備計画をまとめる過程で判断する。国土交通省の関東地方整備局は06年末に整備計画を作り始めたが、09年夏の政権交代で作業が中断。その後、全国のダム見直しの一つとして八ツ場ダムの是非が検証され、関東地整が昨年秋、「八ツ場ダムを含む対策が最も安上がり」との結論を出した経緯がある。
だからと言って、ダム本体の工事を後押しするような拙速な整備計画作りは許されない。
作業の中断まで、関東地整は「50年に1度の洪水に備える」との前提に立っていた。ところが、八ツ場ダムの検証作業では「70〜80年に1度の洪水」に変更した。より大規模な洪水に備えることになり、ダムの必要性が押し上げられた。
前提を変えたのだから、整備計画作りはゼロから始めるべきだ。変更の理由について、関東地整は「利根川が流れる首都圏の重要性を考えた」と説明するが、そのぶん対策に時間とコストがかかる。整備計画が想定する20〜30年での完了が可能なのか、疑問が生じる。
まずは「70〜80年に1度の洪水」という前提が妥当か、検証する必要がある。官房長官裁定でも求められたポイントだ。
計画作りでは、ダム批判派をまじえた議論が欠かせない。関東地整に置かれた有識者会議はメンバーを一新すべきだ。時間的に難しいなら、八ツ場ダムに反対する学者や市民団体が参加する討論会が不可欠だ。
公聴会の開催やパブリックコメントの募集では、「聞いただけ」に終わりかねない。賛否の意見が直接ぶつかりあってこそ議論が深まる。
関東地整が「最も安上がり」と結論づけた「八ツ場ダムを含む対策」も、八ツ場ダム以外に調節池や堤防の整備、河道の掘削が必要で、総事業費は8千億円を超える。
財政難が深刻さを増すなか、優先すべき対策は何か。八ツ場ダムは本当に必要か。利根川の整備計画作りを通じて、突き詰めなければならない。