日本企業の海外移転が止まらない。国内の産業空洞化を抑えて雇用を守るために、輸出立国の原点に立って、各国との間で輸出製品に対する関税をなくす自由貿易の枠組みづくりを急いでほしい。
海外進出で目につくのが、自由貿易協定(FTA)で先行している韓国への動き。韓国は、米国とのFTAが発効間近なほか、すでに昨年七月には欧州連合(EU)とのFTAが発効した。
東レは、最新鋭航空機の構造材に用いられる炭素繊維の工場を韓国に建設して二〇一三年に稼働する。炭素繊維をボーイングやエアバスといった欧米航空会社に輸出する際、関税がゼロとなるのは価格競争力が増すメリットがある。
トヨタ自動車は一月、米国で生産する乗用車「カムリ」の韓国への輸出を開始。これまでは日本で生産していた。米国から韓国への輸出は、昨年十一月に始めたミニバン「シエナ」に続く二車種目で今後も台数を増やす方針。韓国の乗用車への関税8%が、FTA発効後五年でゼロとなることを見込んだ判断だ。
韓国の貿易総額に占めるFTAや経済連携協定(EPA)の発効・合意済み国の割合は約36%。17%台の日本の二倍以上ある。FTAやウォン安を追い風に、サムスンや現代自動車といった企業が欧米市場で台頭し、日本企業を脅かす存在になっている。
日本でも自由貿易の相手国への輸出は拡大傾向。例えばメキシコへの輸出額は、〇五年のEPA発効後三年で発効前の二倍近くに増えた。
円高に加え関税面で劣れば、国内企業には一段と不利で、条件が有利な海外移転の動機にもなる。半面、自由化で同じ土俵に立てば競争力を発揮できる。関税がなくなって価格が下がれば輸出しやすくなり、国内生産が増加、働き手も必要になるわけだ。国内拠点での生産を保つことは、自動車産業の場合、下請け孫請けなどのすそ野産業まで五百万人を超えるとされる雇用を守ることにつながる。
米韓FTAには、韓国内でも反対がある。日本も農業への影響をはじめ、多くの課題に取り組まなければならないが、輸出立国として自由化は必要だ。日本は一月、環太平洋連携協定(TPP)交渉の事前協議を開始。中国・韓国とは五月にもFTA交渉を始める。韓国の例も教訓に、より有利な条件を引き出すことを心がけてほしい。
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