もう覚えている人は少ないかもしれない。九年前に、合併問題が争点となった隣町の町長選挙に介入したとして、北海道釧路市長や助役ら幹部が逮捕される事件があった▼隣町に住む市の職員に対して、釧路市との合併を推進する候補への投票を働き掛けた公職選挙法違反(公務員の地位利用)容疑だ。判決は禁錮一年、執行猶予五年。「私の行為は万死に値する」と市長は公判で謝罪した▼幹部公務員が立場を利用して投票を依頼するのは軽い罪ではない。果たしてこの人には、その認識があったのだろうか。あったが故に「講話」を通じてあうんの呼吸で、投票すべき候補を伝えようとしたのだろうか▼米軍普天間飛行場を抱える沖縄県宜野湾市長選を前に、沖縄防衛局長が同市内に職員の親族がいるか調査を指示したり、市内在住の職員を集めて「講話」をしたりしたことが明らかになった▼防衛省の調査では、局長は候補者二人を紹介した上で、選挙を棄権すべきではないことや、公務員としての中立性や公正性に疑いを持たれないようにすることなどを求めたという▼「講話」を辞書で引くと「講義して説き聞かすこと」とある。「選挙に行きましょう」程度の話なら、沖縄防衛局の面々は、選挙のたびに上司に説かれなければ投票所に足を運ばない人たちということになる。そうだとしたら、そちらの方が問題だ。