農業を軸に産業連携ネットワークづくりが動き始めた。異業種との協働で食品加工などを手掛け、収益を増やして雇用の場を広げることが狙いだ。「稼げる農業」を育まないと後継者はさらに細る。
農林漁業ビジネスへの関心が高いのだろう。ネットワークづくりを呼びかけた農林水産省に、経団連や食品会社、スーパー、金融機関など、実に四百五十を超える異業種の団体や企業が名乗りを上げてきた。
農林漁業者と異業種とのコラボレーション(共同作業)で農水産品の輸出や加工業などを育て、一次産品に付加価値をつけて稼ぎを増やすことが目的だ。二月には初の「お見合い」が行われる。
野田政権は例外なき関税撤廃を原則とする環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加方針を表明、農業団体は高関税で守られているコメなどへの影響を恐れている。だが、日本農業は自由化交渉のあるなしにかかわらず、生産基盤が危うさを増しているのが現実だ。
農業従事者の六割は六十五歳以上、平均年齢も六十六歳と高齢化が止まらない。兼業を含む農家の農業収入の平均は年間百万円程度で、総収入の大半を会社勤めなどに頼っている。食べていけない農業では若者は振り向いてくれない。今や耕作放棄地は埼玉県の面積を上回る四十万ヘクタールに達した。
それでも、全国を見渡せば経営の多角化で業績を伸ばしている事例が少なくないことに気づく。
北海道に次いで生産高が全国二位の茨城県では、隣県の農家と百ヘクタール規模の栽培契約を結び、併設する工場で大根やサツマイモを刺し身のツマや芋ようかんなどに加工し、外食産業に大量に卸す農業法人も現れた。五十人を雇用し、経営者の年収が二千万円を超すケースなども相次いでいるという。
農水省は攻めの姿勢で事業を多様化する経営者を資金面からも支えようと、自治体や金融機関、企業などと二百二十億円の基金を創設し、将来は国だけで二千億円規模に積み増す計画だ。
対象は野菜などの植物工場、バイオ燃料の生産、遊休地での太陽光発電所建設など広範囲に及ぶ。東日本大震災の被災地復興の後押しにもなるだろう。
それにはビジネスに不慣れな農林漁業者と企業との信頼関係が欠かせない。長く蜜月が保てるよう目配りすることも農水省の役割だ。稼げる農林漁業を育てて先細りから脱し、日本の食料生産の足腰を強くするよう望みたい。
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