世界経済に暗雲が広がっています。欧州危機に加えて、原油タンカーが行き交うホルムズ海峡も緊張が増してきました。そこへ増税論議なのですが…。
国際通貨基金(IMF)が先週、どうも心配になる見通しを発表しました。「世界経済は失速、強まる下振れリスク」と見出しにうたっています。
IMFのような国際機関が景気見通しで「失速」という強い言葉を使うのは珍しい。疑う余地がない判断と考えていいでしょう。中身をみても「成長見通しは悪化し、リスクが急激に上昇した」とはっきり書いています。
◆難航する債務削減交渉
悲観論の理由はなんといっても欧州の債務・金融危機です。ギリシャに端を発した危機はその後、イタリア、スペインといった大国に飛び火し、いっこうに出口が見えてきません。
欧州中央銀行(ECB)が銀行に資金を貸し出して、小康状態を維持してはいますが、火元のギリシャは民間銀行側との債務削減交渉が難航しています。
銀行側は昨年十月、債務の五割削減に同意しました。ところが、債務削減に伴って借り換える国債の発行条件について話がまとまらないのです。
ギリシャは三月二十日に百四十四億ユーロの国債償還を控えており、事務手続きを考えて逆算すると、民間銀行側との交渉期限が二月上旬に迫っています。それまでに交渉がまとまらないと、強制的な債務不履行(デフォルト)に陥る可能性があります。
合意に基づく債務削減なら整然と手続きが進むでしょう。しかし強制的な債務不履行となると、何が起きるか予測できない面があります。市場ではユーロ安が続いてきましたが、いま金融関係者が交渉の行方を固唾(かたず)をのんで見守っている状況なのです。
◆ホルムズ海峡も緊張が
なかには「いや、ギリシャは国の規模が小さいから、どうなっても世界経済への影響は知れてますよ」という楽観論もあります。
二〇〇九年秋から始まった欧州危機は世界中のメディアが追い続けてきました。その揚げ句、ギリシャの交渉が決裂したとなると、市場は当事者たちの問題解決能力を疑って大荒れになりはしないか。イタリアやスペインでも「同じ事態に陥る可能性がある」と考えるかもしれません。
もう一つ。ホルムズ海峡も一段ときな臭さが漂っています。核開発を進めるイランに対して米欧がイラン産原油の禁輸措置を表明すると、イランは対抗して「海峡を実力で封鎖する」という強硬方針を打ち出しました。
そこへ欧州連合(EU)が実際に禁輸を決めて、米国も空母を近海に展開したので、一触即発の雰囲気になりました。もしも軍事衝突となれば、タンカーが海峡を通って原油を輸入している日本にも悪影響が及ぶでしょう。
中東各国に広がった「アラブの春」の民主化運動が産油国に拡大した場合、何が起きるかを懸念する有識者もいます。
日本は原発の再稼働をめぐって議論が続いていますが、目を外に向ければ、原油や液化天然ガス(LNG)のようなエネルギーだって、絶対の安定供給を見込めるとは限らないのです。
IMF見通しに戻れば、欧州のユーロ圏は一二年に「緩やかな景気後退に陥る」と指摘し、前回予測のプラス1・1%成長からマイナス0・5%成長に転落します。イタリアもスペインもマイナス成長です。日本も1・7%成長に下方修正しました。
日銀は景気の現状を「横ばい圏内の動き」と認識していますが、どうも危機感が足りない。日銀自身が先週、一一年度はマイナス成長、一二年度もプラス2・0%成長へと見通しを下方修正したのですから、それで横ばいと言われても首をひねってしまいます。
野田佳彦首相は国会の施政方針演説で、あらためて消費税引き上げにかける意欲を表明しました。一五年に税率10%かと思っていたら、岡田克也副総理は入閣早々「10%では足りない」と追加増税の意向をにおわせています。
景気の先行きが怪しくなってきたのに、増税一辺倒で日本経済は大丈夫なのでしょうか。
◆経済好転が増税の条件
政府と与党が決めた社会保障・税一体改革の素案には「経済状況を好転させることを条件として遅滞なく改革を実施する」との文言があります。
肝心の景気について、どう書いているかといえば「復興需要が成長を支え…法案提出時点に経済状況は好転していくとの見通しが立てられる」と楽観的です。はたしてそうか。ここは腰を低く構えて、警戒すべき局面です。
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