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今年も春闘が始まった。経団連は「震災や円高などで負担が重い企業では」との留保つきながら、年齢に応じて上がる定期昇給の延期・凍結の可能性に言及した。極めて厳しい姿勢である[記事全文]
玄葉光一郎外相とロシアのラブロフ外相が会談し、資源エネルギーを中心にした経済や、アジア太平洋地域での安全保障の分野で両国が協力を強めていくことなどで合意した。一昨年秋に[記事全文]
今年も春闘が始まった。
経団連は「震災や円高などで負担が重い企業では」との留保つきながら、年齢に応じて上がる定期昇給の延期・凍結の可能性に言及した。極めて厳しい姿勢である。
かつて春闘を引っ張った電機や自動車といった輸出産業の労組は、早々とベースアップ要求を見送り、定昇の死守に目標を定める。
業績悪化は一時金で調整するのが筋だ。定昇にまで切り込むのなら、雇用の維持に向けた将来への展望や覚悟を、経営側がきちんと示さねばならない。安易な人件費削りは震災からの復旧でも発揮された日本の「現場力」を衰弱させるだけだ。
主役産業の苦境で、春闘そのものが変わりつつある。円高で恩恵を受ける内需産業の存在感をもっと高める必要がある。
何より、連合が掲げて3年目になる「すべての働く者のための春闘」という理念に内実を与えなければならない。
非正規労働者の待遇改善、中小や地方企業の賃金底上げが、その柱である。以前は地方の賃金相場の把握すらままならなかったが、ようやく情報収集や統計の整備などの足場固めが進んできた。
幅広い労働者の実態を正しくつかみ、賃上げ交渉の求心力を高める正攻法の努力が今こそ大切な時はない。
賃金が低い人ほど増えた収入を消費に回す傾向が強い。景気への効果も考えれば、もっと重視されるべき取り組みだ。正社員クラブと揶揄(やゆ)される企業別労組の欠点を補い、過去最低水準の組織率のテコ入れにもつなげねばならない。
経営側に無用論が根強い春闘だが、その利点は見かけよりずっと大きい。たんに政府主導で制度を作るだけでなく、民間労使が慣行を改め、仕組みを工夫する力を持っていることは日本経済の固有の強みだ。
企業別組合を基礎に、労働者が働く立場から経営を深く理解し、課題の解決に向けて経営側と知恵を出し合う。その歴史的な蓄積は、賃金や待遇の改善のみならず、経済や労働をめぐるさまざまな構造転換にも寄与する変革力を宿している。
例えば、年金支給年齢の引き上げに伴う65歳までの雇用維持という新たな課題にしても、そうだ。若者の働く機会を奪わない形でどう実現していくか。労使が現場で絞る知恵に勝るものはない。
格差の是正、少子高齢化やグローバル化への対応でも、この力を引き出さない手はない。
玄葉光一郎外相とロシアのラブロフ外相が会談し、資源エネルギーを中心にした経済や、アジア太平洋地域での安全保障の分野で両国が協力を強めていくことなどで合意した。
一昨年秋にメドベージェフ大統領が北方領土の国後島を訪問した後、日ロ関係は悪化した。だが、昨年3月の東日本大震災を機に、冷静に両国間で協力のあり方を探る方向へと潮目が変わった。そうした流れを着実に太く育てていきたい。
3月の大統領選挙で復帰を目ざすプーチン首相がロシア外交の主導権を取り戻していることが、変化への大きな要素だ。
欧米重視だったメドベージェフ氏と比べ、プーチン氏はアジア・太平洋方面にも大きな関心を払ってきた。大震災後に、日本へ液化天然ガスを緊急供給し、東シベリアの天然ガス田開発への日本企業の参加などの資源協力を呼びかけたのも、その表れといえる。
ロシアは今年9月に、極東のウラジオストクでアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議を開く。世界の成長を引っ張るこの地域にロシアが参入し、極東・シベリアの開発や、自国に必要な経済の現代化につなげる戦略の一環だ。
シェールガスなど新しい資源の台頭で、ロシアの天然ガスの輸出は、頭打ち傾向にある。福島第一原発の事故の後、発電用に天然ガスの比重が高まる日本と、利害は一致する。隣国ロシアからより安く輸送できるパイプライン敷設の可能性なども含め、資源を中心に協力を探っていきたい。
外相会談では、船舶の安全な航行や海の生態系の保全の協力強化でも合意した。中国の海軍力の増強や、南シナ海をめぐる領有権問題の深刻化など、周辺の安全保障環境は大きく変化している。日ロが海の安全の問題で協力するのは時宜にかなった動きだろう。
軍拡を続け、圧倒的に多い人口でシベリア・極東で接する中国は、ロシアにとって脅威の性格を強めている。極東や北方領土で進めるロシアの軍備の近代化も、そんな事情がある。
しかし、海の安全協議が中国を刺激しては逆効果だ。長期的には中国や他の周辺国も巻き込み、地域の安定に貢献するような方向で進めたい。
北方領土問題で両国の立場の違いはなお大きい。遠回りのようでも、地域のなかでロシアと日本がともに利益になる関係を実行に移していくことが、互いの信頼を深め、問題を解決する環境を育てることになる。