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枝野経済産業相が今夏の電力需給について、「原発ゼロ」を想定して対策を講じていく考えを、朝日新聞のインタビューで明らかにした。定期点検で止まった原発の再稼働は、地元の自治[記事全文]
有機水銀のために手足がしびれたり、けいれんに苦しんだりする水俣病は、発見から半世紀以上続く公害病だ。被害の全体像はいまだ明らかでなく、救済の門を閉ざしてはならない。水俣[記事全文]
枝野経済産業相が今夏の電力需給について、「原発ゼロ」を想定して対策を講じていく考えを、朝日新聞のインタビューで明らかにした。
定期点検で止まった原発の再稼働は、地元の自治体や住民の同意が得られる見通しがなかなか立たないのが実情だ。このままだと、4月末には全国に54基ある原発すべてが止まる。
電力供給の確保は重要だが、最初から安全性とてんびんにかけて論じる話ではない。原発がひとつも動かないかもしれないという最も厳しい状況を想定して対策を講じる。その姿勢は評価する。
枝野さんは、電力各社が火力など原発に代わる発電量を増やしてきたことや、社会全体としてまだ節電余地があることを挙げ、電力使用制限令のような強制的な措置を講じなくても乗り切れる、との見方を示した。
確かに、東京電力管内では昨夏、前年に比べ20%近い節電を達成し、結果的には比較的余裕のある態勢を保った。
ただ、最大の課題だったピーク時の電力使用分散に貢献したのは、主として工場などの大口契約者だ。操業日を休日にシフトした自動車業界のように、コスト増を覚悟で「我慢」を引き受けたところも少なくない。
原発も、福島県内はすべて止まっていたが、新潟県の柏崎刈羽原発は490万キロワット分が動いていた。
関西や九州は原発比率が高いぶん条件は厳しく、臨時の電源確保も東電ほどに十分ではないとされる。はたしてこの夏、電力需給が本当に大丈夫なのか。不安は残る。
インタビューで枝野さんは原発ゼロで乗り切る可能性を強調した。強気の発言は、経産省内で数字の積み上げや効果的な節電メニューの設計が進んでいるからかもしれない。
であれば、需給の見通しや新たな対策の中身を、「今春」と言わず、できるだけ早く示してほしい。
すべてが無理なら、節電対策など一部でもいい。東電は原子力損害賠償支援機構とともに、夏場のピーク需要を抑えるアイデアを社外に募り、採用案には対策に必要な費用を一部負担する制度を始めた。これも全国に広げるべきだ。
少しでも具体的なイメージをつかめるほうが、国民も疑心暗鬼にならずにすむ。
原発を動かさなくて済むならそれに越したことはない。この夏の経験が、脱原発への展望につながる。万全を期して取り組んでほしい。
有機水銀のために手足がしびれたり、けいれんに苦しんだりする水俣病は、発見から半世紀以上続く公害病だ。被害の全体像はいまだ明らかでなく、救済の門を閉ざしてはならない。
水俣病被害者救済法による救済の受け付けは、2年前の5月に始まった。被害者と認められると、210万円の一時金や療養手当などが支給される。
これまで熊本、鹿児島、新潟の3県で5万人が申請した。当初の想定を大きく上まわった。
患者会は被害者を探し、自分の病気を知ってもらうために今月、熊本、鹿児島など西日本6カ所で約400人を検診した。
その結果、受診者の9割に水俣病とみられる症状があった。2004年の最高裁判決はむろん、1977年に国が決めた厳しすぎる基準でも患者と認定され得る人もいたという。
水俣病について声を上げていない潜在被害者が今なお少なくないことをうかがわせる。
法律には「救済措置の開始後3年以内をめどに救済対象者を確定する」とある。このため、環境省は締め切り時期を探っている。野田首相も「一定の時期に申請の期限を設けることが必要」と国会で答弁した。
だが、重い公害だからこそ、幕引きを急いではならない。
95年にも、「最終的かつ全面的な解決」の「政治決着」があり、1万1千人が救済の対象になった。このときは約5カ月で受け付けを終えたため、その数倍の人たちが取り残された。
水俣病は救済を受けるべき人々を定義する「水俣病とはどんな病気なのか」という議論に決着がついていない。それほど、難しい病気なのだ。性急に制度を止め、95年の失敗を繰り返せば、地域の人々の不安が続く。
救済法は生まれ育った地域や生まれ年で範囲を限っている。例えば熊本、鹿児島両県では水俣市など9市町だ。それ以外の人は魚の多食などの証明が必要だが、地域外からも多くの人が申請した。だが、このうち救済になったのは何人かなどの情報を環境省は「予断を与える恐れがある」と明らかにしない。
この地域外から訴えた原告も7割の人が同じ基準で救済され和解した裁判もある。どのような人が救済されるか、環境省は親切に説明する役目がある。
政府はこの公害がわかったときに、水俣を中心とする不知火海一帯の被害を広く調査するべきだったが、していない。その手抜かりを補うためにも区切りをつけず、被害がわかった人のために、今後も申請できる恒久的な制度が必要だ。