野田佳彦首相の施政方針演説に対する各党代表質問。谷垣禎一自民党総裁は早期の衆院解散を迫ったが、水掛け論に終わった。党首同士、年金制度と税負担をめぐる骨太の議論がなぜできないのか。
谷垣氏がやり玉に挙げたのが消費税率を二〇一四年四月に8%、一五年十月に10%へと引き上げる「社会保障と税の一体改革」だ。
〇九年衆院選の民主党マニフェストには消費税率引き上げが明記されておらず、今の民主党政権には「税率引き上げを行う権限は与えられていない」として、衆院を解散して国民に信を問い直すよう求めた。
これに対し、首相は「現在の衆議院議員任期中に税率は引き上げない。公約違反には当たらない」と反論し、「やり抜くことをやり抜いた上で、国民の判断を仰ぎたい」と早期解散を否定した。
谷垣氏が指摘するように、今の民主党政権が消費税率を引き上げるのは明白な公約違反だ。今の衆院議員の任期中に上げないから公約違反ではないという首相の言い分は詭弁(きべん)にすぎない。
だからといって、衆院解散で出直せば、すべてうまくいくというほど、日本の現状は甘くない。
公約破りの民主党には、これから一年半余りの間にある衆院選で有権者の判断が下されるとして、今の国会に求められているのは、年金、医療、介護などの社会保障制度やそれを支える税制の在り方を真剣に議論することだ。
特に、どちらも政権に就く可能性のある民主、自民両党の党首ともあれば、それぞれが目指す「国のかたち」を堂々と掲げて、議論を戦わせるべきである。
思えば〇九年十月、当時の鳩山由紀夫首相に対する谷垣氏の初の代表質問は聞き応えがあった。
谷垣氏は「わが国が目指すべき『国のかたち』は適切な規模の『中福祉中負担国家』だ」と主張。鳩山氏は「それほど大きな負担にならなくても大きな幸せを享受できる社会をつくることができる」と答え、議論がかみ合っていた。
給付と負担の割合をどうするかは社会保障や税制を制度設計する際の根幹であり、党首同士が論戦するにふさわしい。
特に、年金制度をどう改革するのか、税負担の在り方をどうするのか、行政と国会の無駄をどう省くのかは、喫緊の課題でもある。
いずれ党首討論も開かれるだろう。衆院解散の時期や政権の正統性ばかりに焦点が当たる論戦になるのならあまりにも寂しい。
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