「土砂降りの雪」という表現は妙かもしれない。でも、それぐらいおとといの夜の雪は迫力があった。稲妻がまぶしく光り、大粒の雪が激しく落ちてくる。傘はすぐにずっしりと重くなった▼都心では一時、四センチ積もった。湿った雪だったのでだいぶ解けたが、厳しい冷え込みでかちかちに凍って歩くのに苦労した。滑らないように腰をかがめてしずしずと歩く。周囲を見るとそんな人が多かった▼この程度の雪で、と雪国育ちの人はあきれるかもしれない。こんな雪でも転倒やスリップ事故が相次ぎ、首都圏で六百人を超える人が骨折や負傷をしたのだから笑い事では済まない。滑りやすい日は続くので、ご注意を▼<雪がはげしく/ふりつづける/うわべの白さで/輝きながら/うわべの白さを/こらえながら/雪は/汚れぬものとして/いつまでも白いものとして/空の高みに生まれたのだ/その悲しみを/どうふらそう>。吉野弘さんが作詞した合唱組曲の中の詩「雪の日に」の一節だ▼汚れを隠す白い雪と誠実でありたいという気持ちを重ね、詩人は<どこに/純白な心など/あろう/どこに/汚れぬ雪など/あろう>と問うた▼原発が大地にまきちらした放射性物質は今、雪に覆い隠されている。春が訪れたら、雪解け水はセシウムなどとともに川や海を再び汚すだろう。春が待ち遠しい、と思えないのが悲しい。