学校での柔道事故で命を落とした中高生が年平均で四人以上もいる。他のスポーツに比べて突出している。この春から中学一、二年の体育で柔道を含む武道が必修となる。何より安全が優先だ。
中学、高校での柔道事故の多さは想像を絶する。名古屋大の内田良准教授によると、一九八三〜二〇一〇年度の二十八年間に全国で百十四人が死亡した。中学の部活動での死者数は、柔道が二番目のバスケットボールの六倍以上と突出し、サッカー、野球、ソフトボールと続く。
名古屋市の市立高校では昨年六月、柔道部の一年生男子生徒が乱取り稽古で投げられた際、畳で後頭部を強く打ち、翌月死亡した。三重県の県立高校では昨年九月、二年生男子生徒が寝技をかけあう練習中に首の骨を脱臼し、現在も首から下がまひした状態で入院している。
柔道は危険なスポーツだという認識を先生も生徒も共有し、安全対策を徹底することが重要だ。子どもたちを死なせるような授業があっていいはずもない。
死亡事故のうち、中、高ともに一年生が半数以上を占める。身を守るために重要な受け身の習得が十分でないまま、投げ技など高度な練習に進んでいないか、専門家らの忠告は大事にしたい。
武道必修化は、自民党政権時代に子どもの体力低下やモラル欠如をただすという理由で提起された。必修とすべきかどうかは身体の発育度や危険性も含め、もっと議論されてもよかった。国は「先生が十分に研修を積めば指導できる」と言う。だが、現実の事故を前にすれば、なお不安も感じる。
全日本柔道連盟は「安全面を考慮した指導が必要」と警鐘を鳴らし、武道必修化の対策チームをつくった。武道の経験が乏しい保健体育の先生が指導することも予想される。名古屋市は最近、教員向けの安全講習会を開いた。こうした機会を増やし、指導者のレベルアップを図ることが大切だ。
が薄い」などの理由だった。死亡した生徒の母親は「教育関係者には再発防止を徹底してほしい」と話している。事故を隠すような対応では子供が危ない。
柔道が悪いのでは、もちろんない。不適切、不十分な指導を恐れるのである。もし事故が相次げば、柔道授業の中止も考えなければならないだろう。
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