あらかじめ申し上げておく。読むに堪えぬほどややこしい、ある極めて身近なものの定義を、今から書く▼<セシウム原子133の基底状態の二つの超微細準位間の遷移によって発する光の振動周期の九十一億九千二百六十三万千七百七十倍の時間>。ふー、やっと終わった。辞書から引き写すだけで二十秒ほどかかったが、これが「一秒」である▼世界の標準時刻は原子時計に基づいており、一秒は一九六七年以降、この定義によって決められている。ただ、地球の自転は一定でないため、自転に基づく天文時とはズレが生じる。それを埋めるのが「うるう秒」。最近では二〇〇九年元日に一秒挿入、一日が一秒長くなった▼しかし、「うるう秒」に廃止論が出てきた。コンピューターの不具合を招きかねず、金もかかるというのが理由。最近、国際電気通信連合で議論されていたが、当面は継続し、結論は九千四百六十万秒ほど…いや、三年後に持ち越すことになった▼たかが一秒、と申されるな。少し古いが、こんなデータも見ていただこう。<大型トラック63台分、252トンの化石燃料が使用され…テニスコート20面分、5100平方メートルの天然林が消失し…79個の星が爆発してその生涯を終え…人口が2・4人増え…>(山本良一責任編集『1秒の世界』、〇三年)▼たまゆらに、世は移ろう。たかが一秒、されど一秒。