英語のカンニング(cunning)という言葉は、日本で定着するまで、大変な“旅”をしてきたらしい▼元来は「知る」の意。それが「知識豊富」「熟練」から「魔法」や「邪悪な知識」などを指すように転変した。米国では十九世紀半ばまで「かわいい」「賢い」などの意で使われていたというから驚く(『ブルーワー英語故事成語大辞典』)▼そして結局、現在の通常の意味である「ずるい」になったわけだが、日本ではなぜか、テストで答えを盗み見るような不正行為を指すように。それは、英語ではチーティング(cheating)というのだから、不思議である▼さて、経産省の元審議官が株のインサイダー取引の容疑で逮捕された。東京地検特捜部は、半導体業界を所管していた時、ある半導体メーカーの再生にかかわる未公開の情報を知った上で、同社の株を売買し利益を得た、としている▼インサイダー取引も、一般投資家には見られぬ情報を見て、こっそり点数ならぬ金を稼ぐのだから一種の悪質なカンニング。本人は「既に公知の情報だった」などと否認しているが、同省にはそもそも「所管企業の株取引はしない」などの内規もあると聞く▼職務上知り得た情報で、うまく稼いでいるのでは…。お役人一般に、そんな疑念の目が向けば行政の信頼が揺らぐ。何か根本的な策が必要かもしれない。