皆さんからいただいた年賀状で今年ほど「政治の劣化」を嘆く声が多かった年はありません。政治のあり方を正さないと日本の明日は見えてきません。
「コンクリートから人へ」。二〇〇九年総選挙で、このマニフェストを掲げて圧勝した民主党。衆院に小選挙区制が導入されてから初の政権交代が実現し、日本にも本格的な二大政党時代が到来したのかと、皆さんも大きな期待を抱いたのではありませんか。「政治主導」「事業仕分け」など、新鮮に響いた手法や政策。それが短時日で崩れ、失望に変わりました。どこに原因があるのでしょうか。
◆政党支持より無党派
小粒化した政治家、未熟な政権運営、はき違えた官僚いじめ、だらしない野党など、さまざまな要因がありますが、ここでは政党のあり方に焦点をあててみます。
二大政党制とは本来、政権与党が駄目なら野党第一党が取って代わるといった、いわばシーソーゲームが理想です。だが民主党政権の支持率が下がり、その分、自民党支持率が上がったかというと必ずしもそうではありません。急増したのは無党派層で、そこを中軸に民主、自民両党などがぶらさがるヤジロベエ型になっているのが現実の姿です。しかも衆参両院のねじれ現象で、昨年後半の臨時国会における法案成立率は34%と過去二十年で最低でした。
政治の劣化が、このまま進めば政党政治そのものがおかしくなる危険性をはらんでいます。政党とは行政機構でも民間企業でもなく国民と国とを結ぶ懸け橋の役割を果たす組織です。「官」と「民」にまたがるパブリック(公的)な存在といってもいいでしょう。それだけに綱領、組織、政策などが大事で、それらを掲げて選挙で過半数の支持を得た政党が内閣をつくるルールです。
◆「ウサンクサイ」政党
だが民主党には綱領がありません。菅直人前首相は、かつて社会市民連合を結成したとき従来の政党とは違う組織を考えたといいます。「政党という団体にウサンクサイ感じを持つ。綱領、統制、除名といった政党用語にも反発を感じた」と述懐しています。民主党が綱領を持たないのは、こうした考えが背景にあったのでしょうが、結果的にマニフェストを軸に有権者の支持を取り付ける選挙互助会的な政党になったのです。
「社会保障と税の一体改革」を最重要課題とする野田佳彦内閣ですが、三年前の公約だった「任期中の消費税率据え置き」を自ら破る姿勢に離党者が出たり、なお党内に多くの反対者を抱えるなどネバーギブアップの心意気だけでは乗り切れる状況にありません。
野党を含めて消費税率上げの前に、急がば回れではありませんが日本が取るべき「国のかたち」案をまとめ、そのコンセンサスの上に税率アップの是非を問うべきでしょう。二つの提案をしたいと思います。一つは「国のかたち」案に基づく消費税率引き上げ法案の審議に当たっては各党とも「党議拘束」をはずしてはどうか、との提案です。過去にいくつかの党で「臓器移植法」「国旗国歌法」の採決にあたり党議拘束をかけなかった例があります。党の枠で縛るのはなじまないとの理由からですが、「消費税率の倍増」といった大問題こそ党議拘束を緩和したほうが国会で民意に近い結論が出せるのではないでしょうか。大連立といった政党間の合従連衡よりも、有権者の代表たる国会議員一人一人の「究極の決断」を問わねばならないほど日本の現状は楽観を許さない瀬戸際に来ています。
もう一つは政党助成金制度の改善です。小選挙区制導入後、政党助成法によって国民一人二百五十円、総額三百十九億円(昨年)が受け取りを断っている共産党を除く九党に配られています。コーヒー一杯分の税金でカネのかからない政治実現を、という触れ込みで始まった制度ですが、納税者が希望する政党に配分される仕組みにはなっていません。
これを有権者が毎年、納税や還付申告の折に交付希望の政党名を申請し、その集計結果も加味する制度に改めてはどうでしょうか。そのことで政党間に競争原理が働いて、交付金をより多くもらうためにも「国民の声に沿った政治」を進めようとの気持ちが各党で強まるのではないでしょうか。
◆ポピュリズムでなく
大衆迎合的ポピュリズムを勧めているわけではありません。各党が解散含みの権力闘争に終始し、日本という国の立ち位置に対する危機感が希薄なことに私たちは心を痛めているのです。
今こそ日本の未来を開く設計図はこれだという確信のほどを政府や政党がまず国民に示し、その上で税の問題に踏み込んでも遅くはないはずです。
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