二〇〇一年の秋、サッカーW杯出場に王手をかけたイングランドがギリシャと対戦した。一点差を追うエリクソン監督は後半途中、FWシェリンガムを投入する▼彼が小走りでピッチに入り、ゴール前付近にさしかかった途端、味方から絶好のボール。シェリンガムは瞬間、頭で合わせ、千金ゴールが生まれた。サッカージャーナリストの大住良之さんが以前、本紙に書いていたところによれば、それは「交代してわずか十数秒、歩数にして五十歩あまりの同点劇」だった▼よく「采配の冴(さ)え」などというが、多くのスポーツの場合、試合中に監督の手腕が最も見えやすいのは選手交代である。時に、いつ、誰と誰を代えるかで、大事な試合の行方も決まる▼あのイングランドの話はそれが見事なまでにはまった例だが、さて“野田ジャパン”の場合はどうか。首相は昨日の内閣改造で、岡田民主党前幹事長を副総理として投入するなど五閣僚の“選手交代”に踏み切った▼社会保障と税の一体改革実現に向けた布陣らしいが、野党の姿勢を見れば、岡田さんが入って、すぐ劇的ゴールが生まれる気配はない。味方のアシストどころか消費増税反対派も党内に多い▼サッカーとは違い、点が欲しいなら首相が率先してボールを追うよりない。ただ、大事な試合を落とせば、“監督交代”論が出てくるのはサッカーと同じである。