経済産業省の元審議官が、株のインサイダー取引の疑いで東京地検に逮捕された。過去にも同様の不祥事が相次ぐ役所だ。産業界と密接に関わるだけに、職員の株取引は全面禁止すべきだ。
苦境に陥った企業に公的支援が入るかどうか…。それは株価が急落するか、暴騰するかの大きな判断材料で、投資家には垂涎(すいぜん)の情報だろう。
半導体大手「エルピーダメモリ」社がそのようなケースだった。リーマン・ショックの影響などで経営不振に陥り、同社は二〇〇九年に公的支援を受ける「改正産業活力再生特別措置法」の申請をした。
金融商品取引法違反容疑で逮捕された元審議官は当時、内部情報を基に妻名義で同社株を買い、利益を上げたとされる。「報道された公知の事実に基づいた妻の行為だ」と元審議官側は反論しているが、同社の再建計画の担当者であったことを考えると、事実なら極めて悪質な行為である。
同年には別の半導体大手の株をやはり妻名義で購入している。この会社は経営統合を進めており、情報通信産業分野を担当していた元審議官はその情報を事前に知りうる立場だった。資源エネルギー庁前次長でもあるエリート官僚だ。政策立案する立場の高級官僚が私利私欲に走れば、その政策さえ国民から灰色に見られる。
問題なのは、過去にもインサイダー事件がたびたび起こる経産省全体の“体質”だ。〇五年には幹部職員が、産業再生機構の支援を受けて、再生中の企業の株取引を行い、運用益を上げていた。企業の浮沈に関わる情報が集まり、公的支援というカネも握る官僚のタガがはずれれば、証券市場ではやりたい放題だろう。
むろん内規はある。所管する企業の株取引を行わないことや、株売買の報告をすることなどだ。
〇五年の問題を受けて、同省は全職員に対し、全銘柄の株売買の自粛を求めた。ただし、わずか二年で自粛は取りやめていた。
今回の事件が発覚した昨年末にも自粛の復活や、職員と配偶者などの証券口座を登録制にするなど規律強化を図った。だが、元審議官のケースは氷山の一角かもしれない。さらに徹底した調査を尽くすべきである。
自粛では生ぬるい。職員とその家族の株取引を全面禁止とするなど、果断な取り組みがないと、官僚の不正に対する国民の怒りは膨らむばかりだろう。
この記事を印刷する