今日は「さくら」の話。と言ったら、いくら何でも気が早すぎると思われようが、花でも、ましてや馬肉でもない「さくら」のこと▼当て字なら「偽客」と書く。辞書によれば、元は、芝居で、役者に声を掛けるよう頼まれた無料の客を指した。それが転じて、店側と通じ、客のふりをして、ほかの客を誘う役を意味するようになったという。パッと景気よくやってパッと散るから「さくら」だともいうが、元来の語源ははっきりしない▼ただ、客が客を呼ぶのは確かだ。当今流行の言葉にも「行列ができる○○店」というのがある。本来は目に見えない「評判」を可視化してくれるのが列なす客。迷っている客には選択のよすがになる▼その可視化をネット上でやろうというのが、飲食店ランキングサイト「食べログ」だろう。順位は利用者の評価などが基になるが、最近の報道によれば、「やらせ業者」にランキング操作されている事例があったらしい▼その手の業者は、好意的な口コミ投稿の掲載や順位上昇を請け負い、見返りに飲食店から金を受け取っていた。月間のサイト利用者三千万人以上というから、“ネット偽客(さくら)”に誘われた客で不人気店が繁盛店に変身するケースもあったに違いない▼食品から原発推進世論、そしてお店の「評判」まで…。世に偽装の種は尽きまじ、か。つくづく油断のならぬ時世である。