HTTP/1.1 200 OK Date: Fri, 06 Jan 2012 20:21:26 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:民の力を活かそう  リンカーンの警鐘:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

民の力を活かそう  リンカーンの警鐘

 四年に一度の革命、といわれる米大統領選挙がスタートしました。無名の一議員を大統領に押し上げた民の力は今回、いかなる審判を下すのでしょうか。

 「家が内輪で争えばその家は成り立たない」−。まだ一上院議員だったオバマ候補が五年前、早々と出馬表明した集会で掲げた第一声です。イラク戦争を機に分断したアメリカ社会へ警鐘を鳴らしたものでした。

◆二人に一人が低所得層に

 選挙の興奮はとかく冷めやすいとはいえ、史上初の黒人大統領選出に沸き返った米国社会が、中間選挙を経て生じた連邦議会のねじれ現象下、政府機能停止寸前にまで追い込まれる事態を、どれほどの人が想像したでしょうか。

 オバマ政権が、ブッシュ前政権から引き継いだ負の遺産の中でも大きかったのは、極端な米国一極主義がもたらしたイラク、アフガニスタンの二つの戦争と、強欲資本主義が暴走して生じた未曽有の金融危機でした。

 イラク戦争については先月、選挙戦スタートを見計らったように全軍撤退に伴う終結宣言を発表、内政重視を印象付けました。大恐慌以来と言われた金融危機に関しては、就任後打ち出した総額約七千八百億ドル(約六十兆円)に上る景気対策が危機拡大に一定の歯止めをかけたといえるでしょう。

 しかし、国民は、なお8%を超す失業率に示される不況の下、成果を実感できないままです。国民の二人に一人が貧困ないしは低所得層に属している、との国勢調査統計もそれを裏付けています。

 「問うべきは小さな政府か、大きな政府かではない。政府が機能するかどうかだ」。就任時のオバマ大統領の意気込みを裏切るような政府の機能不全を象徴するのが医療保険制度でしょう。

◆選挙左右する違憲訴訟

 四千六百万人が無保険者という医療格差の是正をうたい、共和党との激しい議会攻防戦の末成立した医療保険改革法は、既存の公的医療扶助制度の適用拡大を軸に、低中所得層への補助金、税額控除を導入、無保険者三千二百万人を救済するものです。二〇一四年の本格開始を前に一部がすでに発動され被保険者は増加しています。

 国民に保険への加入を義務付け、国民皆保険制度へ道を開いたものですが、国家理念を個人の自由、自助に置く米国では、未(いま)だ十分な理解が得られず、保守派からは「社会主義的」との批判が絶えません。九千四百億ドル(約七十二兆円)とされる財源の裏付けが不透明なことや、福祉国家を達成しながら財政危機に喘(あえ)ぐ欧州諸国の現状も大きく影響しています。

 共和党陣営は、「新法は違憲」として全米二十を超える州で法廷闘争を繰り広げています。すでに「国民に保険加入を義務付ける条項は、憲法に定められた議会権限を逸脱している」とする連邦控訴審での違憲判断も出ています。

 憲法学者でもあるオバマ大統領は最高裁の判断を仰ぐ方針で応じています。この夏にも示される予定の最高裁判断は、国のかたちをめぐり、選挙戦の行方を大きく左右するでしょう。

 共和党のアイオワ州党員集会の結果は示唆的でした。予想通り穏健派のロムニー氏が勝者とはなりましたが、ロムニー氏はマサチューセッツ州知事時代に州で皆保険制度を導入していることから、今後政策の整合性に苦慮することは明らかです。保守派のサントラム元上院議員、小さな政府を一貫して訴えるポール下院議員両氏の躍進は、保守派の不満を色濃く反映した結果といえ、揺れ動く共和党支持者の心中を表しています。

 草の根運動は、米国建国以来の伝統です。一方で、国民の不満を背景に大衆迎合的な主張が飛び交う危うさも秘めています。

 「強い米国」の再生を望む茶会運動には、熱狂的な愛国主義に流れやすい不満の声が満ちています。「アラブの春」に触発されたウォール街占拠運動も、なお全国的な広がりを保っているとはいえ、指導者を欠き、具体的な要求にもつながらず、異議申し立てにとどまっています。いずれも、民の怒りをすくいきれない政治、また政治家の限界でもあります。

◆家が内輪で争えば

 冒頭引用したオバマ大統領の言葉は、南北戦争の数年前、奴隷州と自由州の間で連邦が分断される事態を危惧したリンカーンが行った演説の一節です。圧倒的軍事力を背にイラク戦争に踏み切り、国内外の分断を招いた「怒れる米国」への警鐘を込めていたことは言うまでもありません。

 民主的プロセスを逸脱せずに、対立する国民の声を形にする政治家を育めるのか。リンカーンの警鐘は、米国自身の再建を担う民の可能性を問うています。

 

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