故市川崑さんが監督した記録映画『東京オリンピック』には日本男子バレーの活躍が一コマも映されていないそうだ▼筆者の記憶は曖昧だが、当時コーチだった松平康隆さんがいうのだから間違いあるまい。よほどご立腹だったとみえて、ミュンヘン五輪前に著した本、『負けてたまるか!』にこうまで書いている。<その時以来、市川崑は大嫌いである>▼ことほど左様、銅を取った東京五輪当時さえ男子バレーは、金の「東洋の魔女」に隠れて注目度はいまひとつ。それを人気競技に変貌させたのが松平さんだった。監督となったメキシコでは銀、ミュンヘンでは、前宣伝通り、金を手にした▼松平マジックの柱は、やはり独創的な攻撃法。前掲の自著には<日本だけでクリエイトしたもので、亜流でないバレーの技術>として、Bクイック、時間差攻撃、一人時間差、バックアタックなどを挙げる。まさに現在のバレーを「創った人」だ▼その辺の経緯、当時の人気テレビ番組『ミュンヘンへの道』でご覧になった方も多いはず。<工場長、宣伝部長、営業部長>の兼務を自任、マスコミへの「男子バレー」売り込みにも才を発揮した▼そんなバレー界の恩人もついに鬼籍に入られた。今年は五輪イヤー。先に逝った当時の名選手らとともに、日本バレーを天上から見守ってほしいものだ。できれば市川監督も一緒に…。